ベトナムのサプリメント市場最新動向まとめ
市場規模と成長率
ベトナムのサプリメント(健康補助食品)市場は、この10年で急成長を遂げています。Euromonitorの推計によれば、2022年の市場規模は約24億米ドルに達し、今後も年平均7%程度の成長が見込まれています。一方、調査会社DataM Intelligenceの報告では、2023年の市場規模は約19.5億米ドルで、2027年には約24.6億米ドルに拡大すると予測されています(年平均成長率6.2%)。定義範囲によって数値に差はありますが、例えばJETROのレポートでは機能性食品を含む広義の市場規模が2025年に87億米ドルに達すると予測されており、ベトナムの健康食品市場全体が極めて大きなポテンシャルを持つことが示唆されています。成長の背景には、経済発展による可処分所得の増加や健康志向の高まり、予防医療への関心の拡大などがあり、政府も予防医療システム強化に取り組むなど追い風となっています。
現在人気のサプリメントの種類・成分
ベトナムでは消費者ニーズの多様化に伴い、さまざまな種類のサプリメントが人気となっています。特に以下のカテゴリーが注目されています。
- 美容・アンチエイジング系: 肌のハリや老化対策を目的としたコラーゲン配合の美容サプリメントが若年層・女性を中心に人気です。日本製のコラーゲンドリンクやパウダーなども浸透しており、コラーゲン入り飲料は予防的なスキンケアとして定着しつつあります。美肌や美白志向が強い市場であり、例えば日中用・夜用カプセルで24時間スキンケア効果を謳う製品が投入されるなど、各社が革新的な美容サプリを展開しています。
- 免疫力・健康維持系: COVID-19を契機に免疫力を高めるビタミン類やハーブサプリへの需要が飛躍的に増えました。ビタミンC、ビタミンD、亜鉛などの栄養素やプロバイオティクス(腸内環境改善による免疫サポート)が注目されています。大手メーカーも免疫強化を前面に押し出した商品を投入しており、例えば2023年には米Abbott社が免疫サポート成分配合の高齢者向け栄養飲料をベトナム市場に投入しました。
- 伝統ハーブ・天然由来成分系: ベトナムでは漢方・伝統医学の文化も根強く、高麗人参(朝鮮人参)や紅麹、薬草系のサプリメントが広く受け入れられています。実際、市場で販売される製品の約70%にハーブや伝統素材が含まれているとの報告もあり、自然由来で副作用が少ないというイメージから人気です。中でも高麗人参(ジンセン)は最も人気のハーブサプリとされ、免疫力アップ効果への期待から需要が急伸しています。
- 骨・関節・認知機能サポート系: 高齢化の進展に伴い、骨粗鬆症予防や関節ケア、記憶力維持を目的としたサプリも急速に存在感を増しています。特にカルシウムやグルコサミンなど骨・関節の健康に寄与する製品は顕著な需要増加がみられます。ある調査ではベトナムでは骨の健康補助サプリへの関心が他国より際立って高いとの指摘もあり、実際に関節症対策のサプリ(例:カルシウム+D+K配合の錠剤など)が市場でヒットしています。また、イチョウ葉(ギンコー)やバコパといったハーブを使った記憶力維持サプリも人気があり、認知症や物忘れを気にする中高年層に支持されています。
この他にも、ダイエット・体重管理系(脂肪燃焼やプロテイン系)や肝機能サポート(デトックス系)などのサプリも一定の需要があります。全体として、ベトナムの消費者は目的別にサプリメントを使い分けており、「美容」「免疫」「伝統ハーブ」「生活習慣病予防」といったキーワードで市場がセグメント化されています。
主な販売チャネル
ベトナムにおけるサプリメントの流通チャネルは多岐にわたり、オンライン・オフライン双方で市場拡大を支えています。
- ドラッグストア・薬局: 従来からサプリメント販売の主要チャネルです。街中の個人薬局から大手ドラッグストアチェーン(PharmacityやLong Châuなど)まで、幅広い店舗で各種サプリが取り扱われています。医薬品と同様に薬局で健康補助食品を購入する習慣が根付いており、薬局での販売は依然として主力チャネルとされています。薬剤師による推奨や対面相談ができる点が、消費者の信頼につながっています。
- オンライン通販(Eコマース): ECサイトやモバイルアプリでの購入が急増しています。LazadaやShopee、Tikiといった主要オンラインマーケットプレイスでは国内外のサプリメントが手軽に入手可能で、特に若年層を中心に通販利用が拡大しています。2021年時点でベトナムのEC市場規模は約137億米ドルに達し、小売全体の6.5%を占めるまでに成長しました。サプリメントもその一角を占め、オンライン経由の売上が市場拡大を後押ししています。
- 直販・マルチレベルマーケティング: 口コミや対面販売によるネットワークビジネス系のチャネルも無視できません。実際、口コミ重視の市場特性があるためHerbalifeのような直販企業が成功しており、Herbalifeは2020年時点で市場シェア約11.2%とトップクラスでした。AmwayやNu Skinといった外資系マルチ商法企業も積極展開しており、愛用者同士の紹介によって販路を広げています。
- 病院・クリニック: 医療機関でのサプリメント取り扱いも増えています。特に栄養補助目的のビタミン剤や特定保健用途の製品が病院内薬局やクリニックで販売・推奨されるケースがあります。医師や栄養士からのアドバイスとともに提供されることで信頼性が高く感じられ、専門家の勧めで購入する層も存在します。ただし、営利目的での過剰な推奨にならないよう専門家の倫理が問われる場面も出てきています。
- その他のチャネル: ショッピングモール内の健康食品専門店(例:日本製品を扱うSakukoやDHC直営店)、スーパー・コンビニエンスストアなどでもサプリメントが販売されています。またSNSやライブコマースを通じた販促・販売も盛んで、FacebookやZaloでインフルエンサーが商品を紹介し、そのまま購入につなげる手法も一般化しています。特に若い世代はオンライン上の情報に影響を受けやすく、ソーシャルメディアは重要なマーケティング経路となっています。
規制や認可制度
ベトナムにおけるサプリメント(機能性食品)の規制は整備途上にあり、近年強化の動きが見られます。現在の制度では、医薬品とは異なり販売前の臨床試験や公的な安全性審査は義務付けられていません。代わりにメーカーや輸入業者は製品ごとに自主申告(自己宣言)制度によって市場投入が可能であり、所定の書類提出(成分試験報告書等)と公告を行えば販売開始できます。これは簡便な反面、当局による事前チェックがないため過大な効能表示や品質ばらつきが懸念されています。
製造面では品質基準の向上が図られています。2018年の政令15号により国内の健康食品製造施設にはGMP(適正製造規範)の遵守が義務付けられ、2020年時点で200以上の工場がGMP認証を取得しています。これにより一定の製造品質は保たれていますが、市場には未だ非GMP工場製の違法製品や粗悪品も出回っており、取締りが課題です。
輸入製品に関しては、製品登録やラベル表示の義務など厳格な手続きが定められています。海外からサプリメントを輸入・販売するには、保健省管轄の食品安全局への**製品届出(プロダクトデクラレーション)**を行い、成分・品質試験の書類やベトナム語表記ラベルの提出が必要です。また販売業者側も、機能性食品販売の営業許可を取得し、営業中は衛生管理基準を遵守することが求められます。
こうした制度の隙を突いて無許可販売や偽造サプリも問題化しています。実際2023年にはハノイで100トンを超える偽造健康食品が押収される事件も発生し、市場の信頼性が揺らぎました。現行制度では発覚後の罰則も限定的で、業者が看板替えして再参入するケースさえ指摘されています。そのため専門家からは規制強化(科学的エビデンスの審査、誇大広告の取り締まり強化、違反時の罰則厳格化など)の必要性が提言されています。政府も安全確保のため規制見直しに着手しており、業界団体であるベトナム機能性食品協会(VAFF)も国内外の情報交換を通じてルール整備に協力しています。
現地および外資系の主要ブランドと戦略
ベトナムのサプリメント市場は非常に競争が激しく、国内外から多数の企業が参入しています。トップ企業でさえシェア数パーセント台に留まり、上位5社の市場占有率を合計しても25%程度という分散状態です。主要プレーヤーとその戦略の特徴を以下にまとめます。
- Herbalife Nutrition(米・ハーバライフ): 直販方式でプロテインやビタミンなどの栄養補助食品を展開するグローバル企業。2020年時点で11.2%のシェアを持ち市場首位。愛用者による口コミネットワークと定期的な製品説明会などでブランド力を確立しています。2022年の同社ベトナム売上は約2億9890万ドルに達し前年比+9.6%成長するなど、継続的に二桁成長を続けています。
- Traphaco JSC(現地・トラファコ): 漢方・生薬系の伝統薬メーカーとして知られるベトナム大手製薬企業。市場シェア約7.9%で国内企業トップ。豊富な漢方処方を活かした肝機能改善ドリンクや滋養強壮サプリが主力で、国産ブランドとして信頼を得ています。価格帯も手頃で地方都市まで流通網を持ち、マス市場を攻略しています。
- Amway Vietnam(米・アムウェイ): ビタミンサプリやプロテイン等を扱う世界最大級のネットワークビジネス企業のベトナム法人。シェア5.1%で業界3位。豊富な製品ラインナップとビジネス機会を武器に、都市部の富裕層から農村部までディストリビューター網を広げています。
- Nu Skin Vietnam(米・ニュー スキン): アンチエイジングに強みを持つ米系サプリ・美容機器メーカー。**シェア約4.9%**と上位に入り、特にコラーゲン飲料や栄養ドリンクなど美容志向の商品で中間〜富裕層女性に人気です。販売は直販とEC双方を活用し、インフルエンサー施策にも積極的です。
- DHG Pharma(現地・ハウザン製薬): Hau Giang Pharmaceutical JSCはベトナム最大級の製薬会社で、ビタミン剤や滋養強壮ドリンクなど健康食品分野にも進出。市場シェア3.6%を持ち、病院ルート等での販売も強みです。国内生産の強みで価格競争力があり、地方政府の医療支援策に合わせた製品開発も行っています。
- Korea Ginseng Corp(韓・正官庄): 高麗人参の老舗ブランドで、ベトナムでも知名度が高い外資企業です。市場シェア約3%でトップ8位以内に入っており、高品質な紅参エキスやサプリが富裕層や年長者に愛用されています。韓国政府系企業という安心感と、贈答品需要もあって順調にシェアを拡大しています。
この他にも、日本のDHCやオリヒロ(美容・ダイエットサプリで有名)、スイスのPharmaton(マルチビタミン剤)、オーストラリアのBlackmores、ニュージーランド発のHenry Bloomsなど海外ブランドがプレゼンスを高めています。外資系ブランドは一般に「高品質で効果が高い」というイメージからプレミアム市場を狙う戦略が多く、中高所得層向けに宣伝展開されています。一方、国内企業は価格競争力と漢方・ハーブの伝統を武器に大衆市場を押さえる構図で、製品カテゴリーも輸入品が強い美容・ビタミン系より、国内勢は伝統成分配合の滋養強壮剤などに注力する傾向があります。
市場戦略面では、新製品投入や海外企業との提携も活発です。例えばスペイン系Monteloeder社は美白効果を訴求するサプリ「Nutroxsun」をベトナム市場向けに発売し、現地企業と提携して昼夜別カプセルという独自コンセプトで美容ニーズを取り込みました。またニュージーランドのPāmu社は現地パートナーと組んでプレミアムサプリを投入するなど、外資の参入も増えています。各社ともSNSマーケティングや美容イベントでのPRなど多角的な戦略を展開しており、ブランド間競争が激化しています。
消費者の傾向や健康志向の変化
ベトナム消費者の健康志向は年々高まっており、市場成長の原動力となっています。中間所得層の拡大と生活水準向上により、自身や家族の健康維持増進に積極的に投資する層が増えました。特に都市部の若年層では栄養補助食品や健康飲料を日常的に取り入れるライフスタイルが浸透しつつあります。一方で高齢者人口も増加しており(2020年に65歳以上が約8百万人、人口の8%以上)、シニア層は高血圧・糖尿病など生活習慣病予防のためサプリメントを活用するケースが増えています。
調査によれば、18歳以上のベトナム人の約58.5%が何らかの健康補助食品を日常的に摂取しているとのデータもあり、健康食品の利用は特定の層に留まらず一般化してきました。COVID-19後は「免疫力を高めたい」「病気にかかりにくい体になりたい」という予防志向が一段と強まり、マスクや消毒だけでなく体内からの健康管理手段としてサプリメントを求める声が大きくなりました。
また、「安心・安全」で「自然志向」な商品への関心も高まっています。消費者は合成添加物より天然成分やオーガニック認証を好む傾向が顕著で、製品選択時には品質や原産国、メーカー信頼性を重視する人が増えています。特に子供や妊婦向けサプリでは安全性への意識が高く、有名メーカーや輸入ブランドが選ばれやすい傾向があります。実際「外国製の方が品質が信頼できる」と感じる消費者も多く、輸入品が市場売上の約40%を占めるまでになっています(残り60%は国産品)。一方で、ハーブ由来の商品は「副作用が少ない伝統的な安心素材」としてローカルブランド品でも受け入れられており、この分野では国産品が優位です。
消費者行動の面では、口コミやオンライン情報の影響力が増しています。友人や家族からの評判を参考にサプリを選ぶ人が多く、これは前述の直販モデル成功にもつながっています。同時にFacebookグループやレビューサイトでの評価も購買意思決定に影響を与えており、企業側もSNS戦略に注力しています。ただし課題もあり、インターネット上には科学的根拠の乏しい宣伝や誇大広告も散見され、消費者がそれを鵜呑みにしてしまうケースもあります。政府は違法広告の監視を強化しつつ、消費者教育にも乗り出しています。
総じて、ベトナムでは「健康でいること」への意識が社会全体で高まり、サプリメントの位置付けも「病気になってからの薬」ではなく「日頃からの予防策」として定着しつつあります。この健康志向の高まりは持続的な市場拡大の追い風となっており、企業にとっては品質や有効性で信頼を勝ち取ることがこれまで以上に重要となっています。一方で、適切な製品選択のための情報提供や規制整備が追いつくかが、今後の市場健全化の鍵を握るでしょう。