電子機器の設計や製造を台湾のメーカーに任せることを検討する日本企業もあります。打ち合わせでは単価や最小ロットに目が行きがちですが、数年後もその製品を作り続けられるかどうかを左右するのは別の3点です。設計データは誰のものか、部品表(BOM)の部品が入手できなくなったとき誰が代替を決めるか、そして製品が台湾から出るときに輸出許可が要るかどうか。
本記事では、この3点を契約の前に決めるための実務を、台湾の法令を確認したうえで整理します。台湾企業の実在確認、BSMI、原産地証明については台湾からの仕入れ|工場委託と輸出手続きの進め方をご覧ください。
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最初に決める:自社設計か、相手の設計か、共同か
自社の設計どおりに作ってもらう(OEM・EMS)、メーカーの設計を自社ブランドで売る(ODM)、一緒に開発する(共同開発)。どれを選ぶかで、最後に手元に残るデータが決まります。
| 形態 | 設計するのは | 発注側に通常残るもの | 別のメーカーへの移管 |
|---|---|---|---|
| OEM・EMS(設計図どおりに製造) | 発注側 | 回路図・基板データ・ガーバー・部品表・ファームウェアのソース・検査仕様のすべて | しやすい |
| ODM(メーカーの設計を自社ブランドで) | メーカー | 製品仕様書と完成品の外観図程度のことが多い | 契約で設計を引き渡す定めがなければ難しい |
| 共同開発 | 双方 | 契約で成果物として挙げたもの | 契約の書き方次第 |
ODM は劣った選択ではありません。自社に開発チームがなくても製品を早く市場に出せます。ただし契約で別に定めない限り、発注側が手にするのは「その製品を売る権利」であって「設計」ではありません。この点を理解したうえで価格と条件を交渉することが大切です。
契約に書かなければ、設計は誰のものになるか
台湾の著作権法と専利法(特許法)では、委託を受けて作られた成果は、契約で決めていなければ作った側に帰属します。費用を払った側に残るのは、利用・実施できる権利です。
関係する条文は2つあります(2026年10月17日時点で、台湾法務部の全国法規資料庫に掲載された条文を確認)。
- 著作権法第12条: 出資して他人に完成させた著作物は、原則として受託者が著作者になります。契約で出資者を著作者と定めればそれに従います。著作財産権も契約で決め、定めがなければ受託者に帰属します。その場合、出資者は著作物を利用できます。ファームウェアやソフトウェア、設計文書はここに含まれます。
- 専利法第7条第3項: 一方が出資して他人に研究開発をさせた場合、特許を受ける権利と特許権の帰属は契約で決め、定めがなければ発明者・考案者・意匠の創作者に帰属します。ただし出資者はその発明等を実施できます。
これは法律の初期設定の要約で、法的助言ではありません。大きな開発案件では、台湾の弁護士に契約書を確認してもらうことをおすすめします。
実務では、契約書に「成果物の一覧」を付け、項目ごとに帰属を書きます。
- 回路図、基板設計データ、ガーバーデータ
- メーカー型番まで入った完全な部品表(社内コードだけでは不十分)
- ファームウェアのソースコードとビルド環境(渡せない場合はソースコードの第三者預託)
- 検査仕様書、検査プログラム、検査治具の図面
- 筐体や金型の図面と3Dデータ
さらに、取引をやめるときにどのデータをどの形式で渡すか、発注側が費用を負担した金型を引き渡すのか保管を続けるのかも書いておきます。この条項がないと、ODM 製品で第二の調達先を作ろうとしたとき、ゼロからのやり直しになります。
部品表(BOM):代替部品とEOLの承認
部品表の部品を無断で変更しないこと、部品メーカーからの変更通知・生産終了(EOL)通知を速やかに転送すること、最終購入(ラストタイムバイ)の判断は発注側が行うこと。この3点を書面で合意します。
電子部品は生産終了になったり、仕様が変わったり、入手しにくくなったりします。ラインを止めたくないメーカーが代替品を探すのは自然なことですが、「ピン互換」の代替品でも温度範囲・精度・ファームウェアとの相性・認証の取得状況が違うことがあります。代替によって、日本で取得済みの適合性の前提が崩れることもあります。
| 項目 | 契約に書くこと |
|---|---|
| 承認済み部品リスト(AVL) | 部品表の各行に承認済みのメーカー型番を記載し、それ以外は書面承認が必要 |
| 代替部品の承認手順 | データシートの比較と、必要に応じて評価用サンプルの提出 |
| 変更通知・EOL通知 | 部品メーカーからの通知を発注側へ速やかに転送する |
| 最終購入 | 残り在庫を買うか設計変更するかは発注側が判断。在庫の保管と費用負担も事前に決める |
| ファームウェアの版 | 製品の版数の一部として扱い、版を上げずに変えない |
💬 部品表の管理条項や代替部品の承認手順を、台湾のメーカーと合意できる形に整えます。 部品表と製品仕様をお送りください。お問合せフォーム・LINEで受け付けています。
台湾の輸出管理(SHTC)が関係する場合
製品・部品・ソフトウェア・技術が台湾の戦略性高科技貨品(SHTC)の規制リストの仕様に当たるか、最終用途・最終需要者に軍事用途の懸念がある場合は、仕向地を問わず輸出許可が必要です。判断はHSコードではなく仕様で行います。
台湾は貿易法第13条に基づく「戦略性高科技貨品輸出入管理弁法」(最終改正2023年10月31日)で、これらの輸出を管理しています。経済部国際貿易署の説明では、すべての仕向地について軍民両用品・軍用品のリストの仕様に当たるものが SHTC になり、HSコードは関係しません。ロシア・ベラルーシ向け、イラン向けには別のリストがあり、北朝鮮とは全面的に貿易が禁止されています。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 第15条第1項 | 輸出前に輸出許可を申請する。有効期間は原則6か月、条文が定める場合は2年 |
| 第15条第2項 | 米国・日本向けで、同一の規制品の輸出額がFOB(離岸価格)で30万台湾ドル未満の場合、または国際貿易署が認めた社内輸出管理制度を持つ輸出者の場合は、相手先が台湾のSHTCエンティティリストに載っていないことを輸出者が確認したうえで、許可証の発給を免除できる |
| 第15条の1 | 社内輸出管理制度を認められた輸出者は、複数国・複数の相手先をまとめた3年間の許可を受けられる |
| 第16条 | 申請には国際輸入証明書、最終用途証明書または最終用途の誓約書、取引書類が必要。最終用途と最終需要者は事実どおりに申告する |
(2026年10月17日時点で、全国法規資料庫の条文と国際貿易署の公表資料を確認。規制リストは改定されるため、分類は都度最新版で確認してください)
日本企業にとってのポイントは3つです。メーカーから最終用途の誓約書などの提出を求められることがあります。自社と販売先がエンティティリストと照合されます。そして、日本向けには第15条第2項の免除規定がありますが、これは「許可証の発給を免除できる」規定で、規制品であること自体は変わりません。分類は出荷段階ではなく仕様を決める段階で、メーカーに書面で確認してもらいます。
許可が必要な製品は、出荷のたびに許可の手続きが入るか、包括的な許可の範囲内かを確認する工程が増えます。納期と着地価格の見積には、この手続きの有無も条件として入れておきます。複数国の候補を同じ条件で比べる方法はアジア複数国の見積もりを同条件で比較する方法をご覧ください。
日本で売るなら:電気用品安全法は輸入者の義務
台湾で作った電気製品を日本で販売する場合、電気用品安全法の届出・基準適合・検査・PSE表示の義務を負うのは、日本側の輸入事業者です。メーカー任せにはできません。
ジェトロの解説によると、電気用品安全法の対象品目を輸入する事業者は、事業開始の日から30日以内に経済産業大臣(経済産業局)へ届け出る必要があります。電気用品は「特定電気用品」と「特定電気用品以外の電気用品」に分かれ、前者は国の登録検査機関の適合性検査を受けて証明書の交付を受ける必要があり、後者も国が定めた方式による自主検査が必要です。検査を終えた製品には PSE マークや事業者名などの表示が求められます(2026年10月17日時点でジェトロ「家電製品の輸入手続き:日本」を確認。同ページの調査時点は2017年3月のため、最新の手続きは経済産業省の電気用品安全法のページで確認してください)。無線機能がある製品は電波法の確認も必要です。
ここで部品表の管理が効いてきます。適合性の確認は特定の部品構成を前提にしているため、メーカーが無断で部品を替えると、その前提が崩れます。試験報告書と、それがどの版の部品表に対するものかを、セットで保管してください。
品質の取り決めに入れること
はんだ付けなどの外観基準と等級、全数で行う検査、署名した限度見本(ゴールデンサンプル)。この3つを決めると、「良品」の意味が双方でそろいます。
- 外観基準: 実装品には IPC-A-610 などの業界規格を使い、クラス(1・2・3)まで指定します。クラスによってはんだ付けの合否基準が変わります。
- 検査: インサーキットテスト、機能検査、エージングのどれを全数で行うか。検査プログラムと治具の所有者も決めます。
- 限度見本: 版ごとに双方が署名した基準品を保管します。
- トレーサビリティ: シリアル番号やロット番号を、部品表の版・ファームウェアの版と結び付けます。
筐体などの機械加工部品は、台湾 精密加工の委託|図面と検査成績書の決め方で図面と検査書類の決め方を扱っています。
契約から量産までの進め方
形態の選択 → 成果物と部品表の取り決め → 輸出分類の確認 → 試作・パイロット生産 → 量産、の順で進めます。
- OEM・ODM・共同開発のどれにするか決め、必要な設計の権利を価格に織り込む。
- 候補メーカーを確認する(実在確認は台湾からの仕入れの手順で)。
- 成果物の一覧・帰属・取引終了時の扱いを契約に書く。
- 承認済み部品リスト・代替承認・変更通知・最終購入を合意する。
- SHTC の分類を書面で確認し、必要なら最終用途の書類を用意する。
- 限度見本に照らしてパイロット生産を行う。試作から量産への移り方は台湾で試作・小ロット生産|量産前に固めることを参照。
- 日本側の電気用品安全法の手続きと、通常税率での着地価格を確認する(日本と台湾の間に経済連携協定はありません)。
よくある質問
1. 台湾のODMに開発費を払えば、設計は自社のものになりますか?
A. 自動的にはなりません。台湾の著作権法・専利法では、委託による成果は契約で決めていなければ作った側に帰属し、費用を払った側は利用・実施できるにとどまります。項目ごとに帰属を契約に書きます。
2. メーカーから受け取るべきデータは何ですか?
A. 回路図、基板設計データとガーバー、メーカー型番入りの部品表、ファームウェアのソース(またはソースコードの預託)、検査仕様とプログラム、機構の図面と3Dデータです。契約の成果物として列挙します。
3. メーカーが部品を勝手に替えることはありますか?
A. 契約で禁じていなければ起こり得ます。承認済み部品リストを決め、代替には書面承認を必要とする条項を入れてください。
4. 日本向けなら台湾の輸出許可は要りませんか?
A. 規制品であれば原則として許可が必要です。日本・米国向けには、輸出額がFOBで30万台湾ドル未満などの条件と、相手先がエンティティリストに載っていないことの確認を前提に、許可証の発給を免除できる規定があります。
5. 台湾製の電気製品を日本で売るとき、PSEの手続きは誰が行いますか?
A. 日本側の輸入事業者です。届出、技術基準への適合、検査、PSEマークの表示を行います。最新の手続きは経済産業省の公表資料で確認してください。
まとめ
台湾への電子機器のOEM・ODM委託は、設計の権利を契約で項目ごとに決めること、部品表の変更を承認制にすること、SHTCの分類を仕様の段階で確認すること、そして日本側の電気用品安全法の義務を輸入者として果たすことで、長く安定して作り続けられる形になります。
単価の交渉より先にこの4点を固めておくと、量産が始まってからの手戻りを避けられます。法令は改正されることがあるため、契約前に最新の条文を確認してください。
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※出典:台湾法務部 全国法規資料庫「著作権法」第12条、「専利法」第7条、「戦略性高科技貨品輸出入管理弁法」第15条・第15条の1・第16条(最終改正2023年10月31日)、台湾経済部国際貿易署「戦略性高科技貨品(SHTC)とは」、ジェトロ「家電製品の輸入手続き:日本」。2026年10月17日確認。