台湾の機械加工工場は、精密部品の委託先の候補として日本企業からも検討されます。ただ、初回の取引で時間がかかるのは、加工の難しさよりも日本の社内図面を海外の工場に送ったときに生じる行き違いです。表題欄の普通公差の書き方、日本語のままの注記、JIS記号で書かれた材質、めっきの膜厚の指定漏れ。日本の協力工場なら暗黙に通じていたことが、台湾の工場では一つずつ質問になり、質問のたびに1日ずつ遅れます。

本記事では、台湾に精密部品の加工を委託するときに、発注側が事前に決めておくことを順に整理します。会社の実在確認・BSMI・原産地証明の話は台湾からの仕入れ|工場委託と輸出手続きの進め方に、普通公差の等級や材料証明の区分の詳しい解説はベトナム切削加工の発注前に決める図面と公差にまとめていますので、ここでは繰り返さず「台湾に出すときに何が起きるか」に絞ります。

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見積依頼の前に、図面一式をそろえる

3Dデータだけで見積を取ると、工場ごとに前提の公差と検査範囲が違う「比べられない見積」になります。2D図面・数量・求める書類まで一式で送るのが出発点です。

3Dモデルは形状の公称値を伝えますが、どの寸法が重要か、どの面が機能面か、どう測るかは伝えません。STEPファイルだけを受け取った工場は、自社の標準的な公差と検査のやり方で見積を作ります。A社は全寸法を三次元測定機で測る前提、B社は抜き取りでノギス測定の前提、という見積を並べても、単価の差が何によるのか判断できません。

見積依頼に入れるもの抜けていると起きること
版数(リビジョン)付きの2D図面と、同じ版の3Dデータどの版で見積もったのか後から追えない
表題欄の普通公差(規格と等級)公差指示のない寸法が工場の慣習で加工される
重要寸法の指定(バルーン番号や重要度記号)全寸法を同じ扱いで測るか、どれも測らないか
材質の記号と規格名(JIS・ASTM・EN など)「同等材」に断りなく置き換わる
表面処理の規格・膜厚・色外注先の一番安い仕様で見積られる
1回あたりの発注数量と年間の見込み数量段取り費の割り振りが実態とずれる
初回出荷時に求める検査書類測定工数が見積に入らず、後から追加請求になる

日本の図面を台湾に送るときに問い返されやすい点

問い合わせが集中するのは、日本語の注記、JIS記号の材質、普通公差の書き方、表面粗さの表記、ねじ・面取りの指示の5か所です。送る前にこの5か所を英語で補っておくと、やり取りが大きく減ります。

日本語の注記。 「指示なき角部はC0.5」「バリなきこと」「打痕・傷なきこと」といった注記は、日本の工場では当たり前でも、翻訳の段階で意味が揺れます。特に「〜なきこと」の外観基準は、どの程度の傷までなら許容するかを数値か限度見本で示さないと、受入検査で判定が割れます。注記は英語を併記し、外観基準は限度見本の写真を添えるのが確実です。

材質の書き方。 SS400、S45C、A5052、SUS304 といったJIS記号は、海外でも広く知られていますが、工場が手元で調達できる材料が同じ規格の材料とは限りません。工場が他の規格の相当材を提案してきたら、化学成分と機械的性質を並べた比較表を書面で出してもらい、承認したら図面の版を上げて記録します。メールのやり取りだけで「同等で可」とすると、次の担当者には伝わりません。

普通公差。 表題欄に「普通公差 JIS B 0405 中級」と日本語だけで書いてあると、読み飛ばされることがあります。英語で規格名と等級を書き、国際規格(ISO 2768-1)との対応も示します。等級ごとの意味はベトナム切削加工の発注前に決める図面と公差を参照してください。

表面粗さ。 旧JISの仕上げ記号(三角記号)が残った古い図面は、海外では解釈が分かれます。Ra などのパラメータと数値で書き直し、めっき・アルマイトの前の値か後の値かも明記します。

ねじと面取り。 ねじの等級、下穴深さとねじ深さの区別、「糸面取り」のような慣用表現は、数値に置き換えておきます。

これらは台湾特有の問題ではなく、海外の工場に出すときに共通する点です。台湾が特別なのではなく、言葉と時差をまたぐ分、1回の質問のコストが大きくなる、というだけです。図面一式の完成度がそのまま納期に効きます。

表面処理・熱処理は外注工程として扱う

熱処理・めっき・アルマイト・塗装を工場内で行うのか、近隣の専門業者に外注するのかを最初に確認します。外注の場合、硬度や膜厚の報告書を出すのは外注先で、加工工場はそれを取り次ぐ立場になるからです。

精密加工の工場が表面処理や熱処理を専門業者に外注するのは、台湾に限らずごく一般的なやり方で、それ自体は問題ではありません。問題になるのは、発注側がそれを知らないときです。

  • 硬度測定の記録やめっき膜厚の測定結果は外注先が作るため、発注時に頼んでおかないと、後から出してもらうのが難しくなります。
  • 外注先が変わると、図面も加工工場も同じなのに仕上がりが変わることがあります。これは工程変更です。
  • 外注先での遅れは、加工工場からは見えにくく、納期遅れとして突然知らされます。

注文書には「特殊工程(熱処理・表面処理)の外注先を事前に知らせること」「外注先を変更するときは事前に通知し、承認を得ること」「外注先の報告書をロットごとに添付すること」の3点を入れておくと、品質の変化を追いかけやすくなります。

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検査成績書と材料証明は「どの段階で何を」求めるか決める

初回ロットではバルーン図面に対する全寸法の初品検査成績書、毎ロットでは重要寸法の成績書と材料証明、特殊工程ごとに外注先の報告書。この組み合わせを発注前に決めます。

書類求める時期中身として確認すること
初品検査成績書(FAI)初回ロット、図面・材料・工程を変えたときバルーン番号ごとの公称値・公差・実測値・測定方法
重要寸法の検査成績書初品承認後の毎ロット指定した重要寸法と、事前に決めた抜き取り数
材料証明(ミルシート)材料のチャージ・ロットごと材質・規格・化学成分・機械的性質と、部品に結び付くチャージ番号
熱処理の報告書熱処理したロットごと処理条件と硬度、測定位置
めっき・表面処理の報告書処理したロットごと膜厚の測定値、図面が求める密着性・耐食性の試験結果
出荷ごとの適合証明毎出荷品番・版数・数量・ロット番号と図面適合の宣言

「重要寸法を検査すること」とだけ書いて抜き取り数や測定器を決めないと、検査計画になりません。材料証明の区分(EN 10204 の 3.1 か 2.2 か)や、日本語・英語での書類の呼び方はベトナム部品調達の品質書類——何をいつ求めるかで詳しく扱っています。考え方は台湾でも同じです。

図面・治具・NCプログラムの権利を契約で決める

発注側が渡した図面は発注側のものですが、工場が作った製作図・治具・NCプログラムは別の話です。台湾の著作権法では、委託して作られた著作物は、契約に定めがなければ作った側に帰属します。

台湾の著作権法第12条は、出資して他人に完成させた著作物について、原則として受託者を著作者とし、契約で出資者を著作者と定めた場合はその定めに従うとしています。著作財産権も契約の定めに従い、定めがなければ受託者に帰属します。その場合でも出資者は著作物を利用できる、という規定です(2026年10月17日時点で、台湾法務部の全国法規資料庫に掲載された条文を確認)。

機械加工の取引に当てはめると、発注側が費用を払って作ってもらった専用治具・検査ゲージ・工場側で描き直した製作図について、次の点を注文書か基本契約に書いておく必要があります。

  • 所有者は誰か(費用を払った発注側か、工場か)
  • 他の顧客の仕事に使ってよいか
  • 委託先を変えるときに引き渡すか、どの形式で渡すか

ODM のように設計そのものを委託する場合の権利(特許を受ける権利を含む)は台湾 電子機器OEM/ODM|設計の権利と輸出管理で扱います。金型の所有権と保管の考え方はベトナム製造委託の金型管理|所有権と契約条項も参考になります。

輸出管理と関税は、加工工場の外で確認する

部品の仕様が台湾の戦略性高科技貨品(SHTC)の規制に当たるかどうか、日本に入れるときの関税をどう見込むか。この2点は加工工場との交渉とは別に、出荷前に確認します。

台湾は貿易法と「戦略性高科技貨品輸出入管理弁法」に基づいて、軍民両用品などの輸出を管理しています。経済部国際貿易署の説明では、規制品かどうかはHSコードではなく、規制リストの仕様に当たるかどうか、そして最終用途・最終需要者に軍事用途の懸念があるかどうかで判断されます(2026年10月17日時点で国際貿易署の公表資料を確認)。一般的なブラケットが規制仕様に当たることは考えにくい一方、特定の装置向けの精密部品では該当の可能性があるため、思い込まずに工場に確認を求めます。許可の仕組みと日本向けの免除規定は電子機器の記事で説明しています。

関税については、日本と台湾の間に経済連携協定はなく、協定税率は使えません。通常の税率で着地価格を見込む必要があります。理由と確認先は台湾からの仕入れ|工場委託と輸出手続きの進め方に、複数国の見積を同じ条件で比べる方法はアジア複数国の見積もりを同条件で比較する方法にまとめています。

初回発注までの進め方

図面一式 → 候補工場の確認 → 見積の比較 → 検査書類と権利の取り決め → 初品承認 → 量産、の順で進めます。

  1. 図面一式をそろえる: 版数付きの図面と3Dデータ、普通公差、重要寸法、材質・表面処理の仕様、数量。注記は英語を併記。
  2. 候補工場を確認する: 会社の実在確認は台湾からの仕入れの手順で。
  3. 見積を同じ前提で比べる: 同じ版、同じ検査範囲、同じ表面処理仕様で。
  4. 注文書に書く: 検査書類と抜き取り数、外注先の通知・承認、治具とプログラムの権利。
  5. 初品ロットを発注し、成績書をバルーン図面と照合して書面で承認する。
  6. 量産に移り、毎ロットの重要寸法成績書と材料証明を受け取る。

形状や仕様がまだ固まっていない段階なら、量産の前に試作の段階を挟みます。試作から量産に移るときに固める項目は台湾で試作・小ロット生産|量産前に固めることをご覧ください。

よくある質問

1. 3Dデータだけで台湾の工場に見積を依頼できますか?
A. 依頼はできますが、工場ごとの標準公差と標準の検査で見積られるため、比べにくくなります。普通公差・重要寸法・表面処理を書いた2D図面を添えるのが確実です。

2. 日本語の図面のままで大丈夫ですか?
A. 寸法と記号は通じますが、注記や外観基準は意味が揺れやすい部分です。注記には英語を併記し、外観の判定は限度見本の写真で示すことをおすすめします。

3. 材料証明は毎回求めるべきですか?
A. 材料のチャージやロットごとに求め、部品とチャージ番号が結び付くようにします。証明の区分(EN 10204 の 3.1 など)は注文書で指定します。

4. 工場が作った治具やNCプログラムは発注側のものになりますか?
A. 契約で決めていなければ、自動的に発注側のものにはなりません。台湾の著作権法では委託著作物は原則として受託者に帰属するため、所有・転用・引き渡しを注文書に書きます。

5. 台湾から日本へ部品を輸入するとき、協定税率は使えますか?
A. 使えません。日本と台湾の間には経済連携協定がないため、通常の税率で着地価格を見込みます。

まとめ

台湾への精密加工の委託は、図面一式の完成度、外注工程の見える化、検査書類の段階ごとの取り決め、治具とプログラムの権利の明記、そして輸出管理と関税の確認で、初回の手戻りを大きく減らせます。

加工の腕前を比べる前に、比べられる条件をこちらで用意することが、海外の工場と長く付き合う一番の近道です。制度や条文は改正されることがあるため、契約前に最新の内容を確認してください。

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※出典:台湾法務部 全国法規資料庫「著作権法」第12条、「戦略性高科技貨品輸出入管理弁法」(最終改正2023年10月31日)、台湾経済部国際貿易署「戦略性高科技貨品(SHTC)とは」の公表資料。2026年10月17日確認。