納入先の品証から「材質証明とRoHSの非含有証明を」と言われ、ベトナムの取引先にメールを投げたが、返信は要領を得ない。部品調達で時間を取られる場面です。

詰まりの正体は語学力ではありません。求めている書類の多くは、部品を作る工場ではなく上流の素材メーカーが発行するものだからです。以下は用語解説ではなく発注側の段取りです(全体像は調達代行の進め方)。

この記事が扱う範囲 — 加工方法を問わず共通する、書類の発行元・求める段階・英語での呼称です。工法ごとに上乗せで求める書類は各記事に置きました。鋳物の試験片の採り方は鋳物調達、ダイカストの成分分析表はアルミダイカスト、板厚実測値とコイルのロット追跡は板金・プレス、成形条件表と材料ロット番号は射出成形、測定器と抜取数の合意は切削加工にあります。検品の実施そのものは品質管理・検品代行です。

品質書類は「誰が発行するか」で段取りが決まる

取り寄せの難易度は書類の種類ではなく発行元で決まり、素材メーカーまで遡る書類ほど手間が増えます。

部品工場が自分で出せるものは、寸法・外観の検査成績書、適合宣言、工程条件の記録。素材の供給元でなければ出せないものは、鋼材の材料検査証明書(ミルシート)、樹脂原料の物性表やSDS、めっき液や塗料の成分情報で、工場は取り次ぐ立場です。材料は購入時期でロットが変わるため、生産後に頼むと入荷分の特定から始まります。変えるべきは催促ではなく注文の出し方です。

RFQ・初品・量産——どの段階で何を求めるか

書類は「出してください」ではなく、種類・言語・頻度・提出期限の四点を見積条件に書き込んで初めて価格と納期に織り込まれます。

明記するのは、種類(どの図番に、どの書類か)、言語と様式頻度(初回のみ/ロットごと/年次更新)、提出期限の四点。頻度を決めずに頼むと二回目の出荷で揉めます。

判断項目RFQ・見積の段階初品(First Article)量産ロット
目的発行範囲と費用の確認仕様どおり作れるかロット間のばらつき監視
求めるもの発行実績と様式材料証明、全項目に近い成績書重要項目の成績書
頻度一回量産移行前、設計変更時毎ロットか取り決めた間隔
変更時条件を契約に明記材料・工程・協力工場が変われば再提出初品に戻す

肝は**「変更があったら初品に戻す」と書面で約束する**ことです。見積もり(RFQ)の取り方品質管理・検品代行もあわせて。

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素材カテゴリ別——何を、誰に求めるのか

同じ「書類を出して」でも、金属・樹脂・電子部品・表面処理で発行元も中身も違います。

部品の区分主に求める書類実際の発行元注意点
金属加工品(切削プレス鋳造材料の検査証明書、寸法検査成績書材料証明は製鋼メーカーや材料商社、寸法は加工工場材料と部品のロットを紐付けておく
樹脂成形品材料の物性表、原料のSDS、検査成績書物性表とSDSは樹脂メーカー、成績書は成形工場銘柄が変われば書類も変わる
電子部品・実装品含有化学物質情報、RoHS適合宣言部品メーカーが一次情報を保有、実装工場は集約役代替品が入ると再取得
表面処理(めっき・塗装・熱処理)処理仕様書、膜厚や硬度の記録、薬剤の成分情報処理工場、薬剤情報は薬剤メーカー二次協力工場が担うことが多い

鋼材の検査文書には欧州規格の EN 10204:2004 があり、2.1/2.2/3.1/3.2 に区分されます(3.1=製造部門から独立した検査担当者が発行、3.2=第三者または購入者の代理人が連署)。国際規格 ISO 10474、日本の JIS G 0415 もありますが、JIS は ISO の技術的内容を変更しており同一ではありません。注文書には規格名と区分を書いてください。

日本語と英語の呼称を突き合わせる

「ミルシート」は日本で定着した言い方で、海外のサプライヤーには英語圏で通じる呼称に置き換えます。

  • ミルシート/鋼材検査証明書 → Mill Test Report(MTR)、Mill Certificate、Inspection Certificate。“Mill Sheet” では通じません。
  • 検査成績書 → Inspection Report、Test Report。
  • 適合証明 → Certificate of Conformance(CoC)。測定値は載りません
  • 分析証明 → Certificate of Analysis(CoA)。実測値が載ります
  • 安全データシート → Safety Data Sheet(SDS)。
  • 非含有証明 → Declaration of Non-use、RoHS Declaration of Conformity。

法規も正式名で書くと早く通じます。RoHS は EU 指令 2011/65/EU、委任指令 (EU) 2015/863 の附属書II改正で制限対象は10物質。REACH は Regulation (EC) No 1907/2006 で、SVHC候補リスト収載物質を成形品中に0.1重量%超で含む場合に情報伝達義務が生じます。chemSHERPA はJAMPを2025年10月に改組したCMPコンソーシアムが運営しています。

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「出せない」と言われたときの三つの代替

書類が出ないと言われても、発行元を遡る・第三者試験で代える・注文書で担保するの三つを順に検討できます。

(a)発行元まで遡る。 工場が出せないだけで、材料の供給元は持っていることがあります。使用材料のロット番号と供給元を確認して遡ります。

(b)認定を受けた第三者試験機関に依頼する。 試験所の能力に関する国際規格 ISO/IEC 17025 の認定の仕組みはベトナムにもあり、結果は国際的な相互承認の枠組みで他国でも参照されます。ただし費用と日数は試験項目や試験所で大きく変わるため必ず見積を。

(c)注文書で担保する。 材質・適用規格・処理仕様を明記し、相違時の扱いを事前に合意すれば争点は減ります。注意は規格の読み替えです。ベトナムの国家規格 TCVN は科学技術省傘下の国家標準計量品質委員会が所管しますが、JIS や ASTM と「相当品」扱いしてよいかは同等性の根拠が要るため、対応表を自分で組み立てて渡さないでください。品質トラブルを防ぐ工場の監査・視察も参考に。

Sunshoの役割——要件の整理から選定・検品・輸出手続きまで

Sunshoはホーチミン拠点の日系商社として、書類要件の整理からサプライヤー選定、検品、輸出手続きまでを一括でお引き受けします。

自社に工場は持たず、ベトナム国内での調達を現地のメーカーやサプライヤーから仲介・管理する立場です。書類の範囲と頻度を伺って条件に織り込んだRFQを作り、発行できる体制があるかも選定の判断材料にします。依頼と回収は現地でベトナム語、報告は日本語。検品・輸出手続きまで通して担当します。候補探しは部品サプライヤーの探し方に。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 発注後にミルシートを頼んでも間に合いますか。 A. 発行元は素材メーカーなので、生産後だと入荷ロットの特定から始まります。見積依頼の段階で条件に入れるのが確実です。

Q2. TCVNはJISと同じものとして扱えますか。 A. 自動的には扱えません。対応表を社内で作らず、適用規格と記号を取引先と文書で合意します。

Q3. 英語で依頼するとき、どの呼称を使えば通じますか。 A. ミルシートは Mill Test Report(MTR)や Mill Certificate、検査成績書は Inspection Report、分析証明は CoA、適合宣言は CoC です。

Q4. RoHS非含有証明とchemSHERPAはどちらを求めますか。 A. 前者は指令 2011/65/EU への適合を示す宣言、後者は含有化学物質情報を伝える仕組みです。納入先が形式を指定するなら様式まで指定どおりに。

Q5. 第三者試験はミルシートの代わりになりますか。 A. 試験報告が示すのは試料の測定結果で、材料の出所やロット履歴とは別物です。トレーサビリティを求められている場合は代替になりにくい点に注意を。

まとめ

品質書類が出てこないとき、問題は「頼み方」ではなく「頼む相手」と「頼むタイミング」にあります。検査証明や原料の物性表は素材メーカーが発行元だからです。

段取りは、①RFQで種類・言語・頻度・提出期限を条件に入れる、②区分ごとに誰が何を出せるか把握する、③通じる英語の呼称に置き換える、④変更時は初品に戻すと合意する、⑤出ない場合は発行元を遡る・認定試験所・注文書で担保する。規格の読み替えだけは自分で決めず文書合意に。