ベトナムの加工先を探すと出てくるのは、たいてい「この設備がある」「この精度まで出せる」という供給側の情報です。しかし実際につまずくのは、図面を投げたときに公差の解釈と測定方法が食い違う一点です。

現物は届いた。寸法も測った。それでも受入検査で「公差内だ」「いや外れている」が始まる。原因は加工の腕ではなく、何をもって合格とするかが発注前に決まっていなかったことです。本記事は見積依頼の前に決めておく項目を整理します。

この記事が扱う範囲 — 素材を削って形を出す切削加工の発注条件です。普通公差の等級指定、幾何公差とデータム、はめあいと表面粗さ、材質記号の書き方は金属部品に共通する土台なので、この記事にまとめ、他の工法の記事からはここを参照する形にしています。素材そのものの作り方は工法別で、鋳物アルミダイカスト板金・プレス樹脂射出成形に分けました。書類は品質書類、候補集めはサプライヤーの探し方、中国からの移管は部品の切り替え手順です。

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見積依頼の前に、発注側が決めていない項目がある

日本国内で通っていた図面は、「書いていないことは社内標準で埋まる」という前提の上に乗っています。取引相手が変われば、その前提だけが抜け落ちます。

面取りの大きさ、バリの許容、測定の当たり前は長年の取引で共有されたものです。同じ図面を新規の海外サプライヤーに渡すと、その分が空白になり、相手は自社の標準で埋めます。対策は空白を消してから見積を出すことです(見積もり(RFQ)の取り方)。

発注前に決める項目チェックリスト

下の8項目が図面か添付資料にあれば、見積の前提が揃います。書かれていない項目は相手の判断に委ねられます。

決める項目図面・資料への書き方決めないと起きること
普通公差の等級表題欄に規格名と等級未指示寸法が相手任せになる
幾何公差とデータム公差記入枠とデータム記号基準面が測るたび変わる
はめあい記号+上下の許容差記号の解釈差が寸法差になる
表面粗さ記号・数値・測定条件見た目判断になり再現しない
面取り・バリ「指示なき角部」の注記バリ取り工数が見積に入らない
材質と代替可否規格名+成分・性質+代替条件同名で別仕様の材料が使われる
熱処理・表面処理処理名・硬さ・膜厚・部位寸法変化の責任が不明になる
検査寸法と個数寸法番号・測定器・抜取数全数か抜取かで価格も納期も変わる

価格と納期に最も効くのは最後の1行です。全数を三次元測定機で測るか、主要寸法を汎用測定器で抜き取るかで工数が変わるためです。

普通公差 — 等級を書かないと、判断は相手側に渡る

個々に公差を指示していない寸法の許容差は、JIS B 0405(国際規格はISO 2768-1)などの普通公差で決まります。等級が図面になければ、選択は製造側が行います。

JIS B 0405は精級(f)・中級(m)・粗級(c)・極粗級(v)の4等級を定めています(JIS B 0405:1991 本文)。表題欄に「JIS B 0405-m」と書いて初めて許容差が決まります。

形状側も同じで、JIS B 0419がH・K・Lの3等級を定めています(JIS B 0419:1991 本文)。ただし対応元のISO 2768-2は2021年に廃止され、後継はISO 22081:2021です。ISO 2768-1は現行ですが、幾何公差は廃止番号に頼らず平面度や直角度の許容値を数値で書いてください。

幾何公差・はめあい・表面粗さ — 番号の新旧まで確認する

公差の種類ごとに国際規格がありますが、番号は入れ替わります。現行かを見てから併記します。

内容JIS対応する国際規格実務上の注意
はめあい・サイズ公差JIS B 0401ISO 286記号に加え上下の許容差を数値で併記
表面性状(粗さ)JIS B 0601ISO 21920 シリーズ旧 ISO 4287 は2021年末に廃止済み

幾何公差で最も抜けやすいのはデータムの指示です。「何に対して」の平行度・直角度かが決まらなければ測れません。受け取った側は置きやすい面を基準にするため、合否が人で変わります。はめあいの記号は国際的に通用しますが、許容差の数値も併記すると往復が減ります。

表面粗さは2021年のISO 21920シリーズ発行でISO 4287が廃止されています(Digital Surf の解説)。RaやRzの記号と数値、カットオフ値などの測定条件を書くのが確実です。

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材質は規格名だけで通さない

JISの材質記号を書けば同じ材料が出てくるとは限りません。海外規格の「相当材」は完全に一致する材料とは限らないためです。

SS400は引張強さと降伏点を主に規定し化学成分は参考値の扱いですが、相当材とされるASTM A36やS235JRは炭素量の上限などを規定しています(SS400の相当材の比較)。相当するが同一ではありません。図面や仕様書には次の3点を書きます。

  • 規格名と記号(JIS G4051 S45C のように規格番号まで)
  • 成分範囲と機械的性質(呼称が通じなくても仕様は通じます)
  • 代替可否と条件(同等材を認めるのか、事前承認を要するのか)

入手性も確認します。現地に在庫がなければ、材料手配の期間が納期に乗ります(ベトナム製造のリードタイム)。

測定の合意 — どの寸法を、どの測定器で、何個測るか

同じ寸法でも測定器が違えば結果は変わります。「公差内か」を争う前に「何で測るか」を見積段階で合意します。

判断の観点ノギスマイクロメータ三次元測定機(CMM)
向いている対象外形・深さの概略外径・厚みなど位置度・平面度など幾何公差
データムの再現当て方に依存測定面が限定基準を定義できる
見積で決めること使える寸法の範囲対象寸法の指定対象寸法・測定点数・抜取数

図面の寸法に番号(バルーン)を振り、どの番号をどの測定器で測り、抜取はロットあたり何個かまで書いた検査指示書を見積依頼に添えます。抜取方式の設計はベトナムでの検品・QC・AQLの考え方へ。

受入検査の判定基準を先に文章にする

受入検査でもめる原因は、書類の有無より「何を合格とするか」が文章にないことです。

材料証明はEN 10204の区分(3.1か2.2か)を注文書で指定します。区分の違いと書類の英語呼称はベトナム部品調達の品質書類にまとめています。

初品検査の様式を定めたAS9102は航空宇宙向けで、一般の切削部品には必須ではありません。「初回ロットは全特性を実測し成績書を添付する」と契約で決めるので十分です。次の4点も先に合意します。

  • 判定基準:図面公差か、別途の受入基準書か
  • 不適合時の処理:再加工・交換・返品の優先順位と費用負担
  • 輸送中の損傷:責任範囲と、梱包・防錆の指定
  • 是正報告:いつまでに、どの様式で出すか

先に文章にすれば、交渉は「誰が悪いか」ではなく「どう直すか」から始まります(予防は品質トラブルを未然に防ぐ方法、発生後は納期遅延・不良発生時の対応)。

なお、達成できる公差・単価・リードタイムは品目の形状と、工場が持つ設備・測定環境によって大きく変わります。自社の図面で試作を一度通すのが確実です。

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よくある質問(FAQ)

Q. 日本の図面をそのまま送っても加工してもらえますか。 A. 図面は読めても、社内標準を前提にした指示は伝わりません。普通公差の等級、データム、面取りやバリの扱いを図面に明示してください。

Q. 図面は日本語のままでよいですか。 A. 寸法と記号は共通ですが、注記は英語を併記します。特に材質・熱処理・表面処理・検査要求は、訳し違いがそのまま不適合になります。

Q. どこまで公差を厳しくしてよいか分かりません。 A. 達成可能な精度は工場ごとに異なります。機能上必要な寸法だけを厳しくするほうが価格・納期・歩留まりで有利です。

まとめ

つまずく箇所は設備能力より前、図面と検査条件の空白にあります。

  • 普通公差は等級を明記(JIS B 0405/ISO 2768-1、f・m・c・v)。
  • 幾何公差はデータムと数値で指示(ISO 2768-2は廃止、後継ISO 22081)。
  • はめあいと表面粗さは記号だけに頼らない(許容差やRa値を数値で)。
  • 材質は規格名+成分・機械的性質+代替可否(相当材は同一材ではない)。
  • 測定器と抜取数を見積段階で決める(条件の違う見積は比較にならない)。
  • 受入判定と費用負担を先に文章化する

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