ベトナムの委託工場から「船積みが2週間ずれます」と連絡が来た。あるいは入港した貨物を開けたら、印字のずれた個体が混ざっていた。この記事はそこから先だけを扱います。
想定読者は、量産ロットで遅延か不良が出た日本企業の担当者です。社内では「作り直させろ」と「受けるしかない」が同時に出ていて、今日中に決めなければならない。予防と日程設計は品質トラブル対策と納期・リードタイムに譲ります。
判断は、工場が悪いかどうかではなく金額と時間の比較で決めます。作り直したほうが損が小さいときに作り直させる。交渉で効くのも声の大きさではなく記録です。
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発生後に決める4つの二択
論点を分けずに交渉すると長引きます。決めるのは4つです。
- 納期——待つか、空輸で時間を買い戻すか。
- 品物——全数作り直しか、選別・手直しか、値引き受入れか。
- 費用——工場に持たせるか、折半か、次回単価で回収するか。
- 関係——この工場を切るか、条件を締め直して続けるか。
1と2を決めないまま費用の議論を始めると、生産も出荷も止まったままです。
納期遅延——待つか、空輸で取り戻すか
比較式は一本です。**空輸の追加費用が、欠品で失う粗利と取引先へのペナルティの合計を下回るなら空輸する。**上回るなら納入先と日程を交渉するほうが安く済みます。
追加費用には輸送費の差額だけでなく梱包変更・書類の作り直し・通関費も入れ、失う側は売上ではなく粗利で見ます。金額は品目・工場・時期で大きく変わるため、自社の数字で計算してください。負担は飛ばす前に書面にします。「とりあえず空輸、費用は後で」では、貨物が届いた瞬間に交渉力が消えます。
不良——作り直しか、選別か、値引き受入れか
振り分けは不良の種類・手元在庫が持つ日数・再生産にかかる日数で行い、不良率だけで決めないでください。機能や安全に関わる不良は、選別で救う発想をまず捨てます。市場に出た後の回収コストが桁違いだからです。表示・ラベルの不良は法令と紐づくので、貼り替えで救えるかを確認します(製品登録・表示)。
| 判断基準 | 全数作り直し | 選別・手直し | 値引きして受入れ |
|---|---|---|---|
| 不良の種類 | 機能・安全に関わる | 外観・軽微な表示 | 外観のみで支障なし |
| 手元在庫の残日数 | 再生産日数より長い | 選別日数より長い | ほぼ尽きている |
| 再生産リードタイム | 商機に間に合う | 再生産しない | 間に合わない |
| 向かないケース | 逃すと売れない商品 | 抜き取りで出ない不良 | ブランド毀損につながる商品 |
選別を現地でやれば不良品を輸送せずに済みますが、判定を工場任せにすると同じものがまた混ざります。限度見本と判定基準を文書で固め、第三者検品を入れます(出荷前検品)。
値引きで負けるのは「では10パーセント引きで」と割合から入るときです。工場も割合で返し、消耗戦になります。金額は積み上げます。①選別・手直しの実費②商品価値の下落分③再梱包や倉庫代などの付随費用④納入先への対応費用。この4行を表で出せば、議論は「認める・認めない」に変わります。
費用は誰が持つか——日本の下請法の常識は持ち込めない
「作り直し費用は受託側の負担」という解説の多くは、日本国内の取引を前提にしています。日本の下請法(2026年1月施行の中小受託取引適正化法)も商法526条の検査・通知義務も国内取引のルールで、ベトナム法人の工場には適用されません。
拠り所は条約か、契約の準拠法です。**日越間の売買は、準拠法の定めがなければCISG(ウィーン売買条約)が適用され得ます。**日本は2009年、ベトナムは2017年に発効しており(UNCITRAL)、合意で適用を排除することもできます。
CISGで効くのは通知の期限です。買主は不適合を発見した(または発見すべきだった)時から合理的な期間内に通知しないと権利を失い、交付日から2年の絶対期限もあります。ベトナム法が準拠法なら商法(36/2005/QH11号)318条で、別段の合意がなければ数量は引渡しから3か月、品質は6か月、その他は9か月。319条の出訴期間は2年です。
費用負担の落としどころは3つ。原因が工場の工程管理にあり未払い残があるなら全額負担を求める。仕様の解釈違いが混ざるなら折半。自社の指示にも原因があるか代替先がないなら、自社で被って次回POの単価で回収する。評価は契約書の文言と事実関係で変わります。
現地の販売先へ独占権を渡している場合は、返品と補償を誰が受けるかが契約の型で変わります。代理店型か販売店型かの切り分けは独占販売契約で押印前に決める7項目にまとめました。
交渉を決めるのは記録——発見から3日でやること
長引く案件の多くは、主張が弱いのではなく証拠が足りません。認識したら3日以内に次を固めます。
- 現物を確保する。返送も廃棄もさせない。1個も残っていない状態では交渉になりません。
- 写真を撮る。ロット番号・製造日・箱番号が不良の状態と同じ写真に写るように。
- 数量を確定する。対象ロットの総数、確認数、不良判定数。抜き取りならAQLの水準(ISO 2859-1)とサンプル数も。
- 検品報告書を作る。判定基準と判定者を明記。第三者検品があればその報告書が使えます。
- 通知を出す。通知には期限があります。社内検討を理由に寝かせないこと。
**口頭合意はその日のうちに文字にします。**Zaloで「直します」と返ってきても後から解釈が割れます。英語とベトナム語を併記したメールを送り、返信をもらうまでで1セットです。
最大のレバレッジは支払条件です。残金が未払いなら相殺や減額で解決できますが、全額支払い済みでは分が悪い。デポジットの比率、検品合格の支払条件化、リテンション(保留金)が次回の交渉力です(支払条件の組み方)。是正処置(CAPA)は文書でもらい、再発時の負担ルールを次回のPOに追記します。
ベトナム固有の事情——テト、下請け、詰める場所
テト(旧正月)前後の遅延と立ち上がり不良は、個々の工場というより構造的な要因です。休暇の日程は毎年政府が決め、連休前の駆け込み生産と連休明けの人員の入れ替わりが重なります。責任追及より日程の再設計のほうが早く片づきます(テト前後の発注スケジュール)。
受注した工場が一部工程を外部に出しているケースにも注意します。責任の所在が曖昧になるため、発生直後に「どの工程を、どこが担当したか」を確認します(工場監査の見方)。
詰める場所と相手を選ぶことも効きます。大勢の前で個人を名指しすると、事実確認そのものが止まります。事実関係は担当者と少人数で、費用負担は決裁権のある責任者と別の場で。「切るか続けるか」は、原因が一過性か構造的か、是正処置が文書で出るか、代替先の立ち上げ費用で決めます。
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よくある質問(FAQ)
Q. 納期遅延で損害賠償は取れますか。 契約に遅延損害金の条項があるかで大きく変わります。実務では損害の証明と相手の資力が壁になり、金銭請求より残金からの相殺や次回単価での調整のほうが回収できます。
Q. 検品前に全額を支払ってしまいました。打つ手はないですか。 交渉力は落ちますが手は残ります。証拠を揃えて期限内に通知を出し、今回の是正を次回発注と紐づけます。次回から検品合格を支払条件に入れてください。
Q. 工場を切るべきラインはどこですか。 原因が特定できず説明が変わり続ける、是正処置を文書で出さない、同じ不良が次のロットでも再発する。この3つが揃ったら切り替えを検討する段階です。
まとめ
発生後の対応は4つの二択です。待つか空輸か、作り直しか選別か値引き受入れか、費用を誰が持つか、この工場を続けるか。どれも追加費用と失う粗利、在庫の残日数と再生産日数の比較で決めます。
支えるのは記録です。証拠を3日以内に固め、口頭合意はその日のうちにメールで確認する。日本の下請法や商法526条の常識は持ち込めず、拠り所はCISGか契約の準拠法で、どちらにも通知の期限があります。期間や費用は品目と工場で大きく変わるため、この枠組みに自社の数字を入れ、法的な判断は専門家にご確認ください。