ベトナム側の候補が1社に絞れ、「独占をくれれば本気でやる」と言われている。あとは条件を詰めて押印するだけ——という段階の方への記事です。
最初に決めるのは、独占を渡すかではありません。「代理店契約」か「販売店契約」かです。日本語ではどちらも「総代理店」と呼ばれますが、ベトナムの法律上は別物で、後で切るときのコストが変わります。
以下、ベトナム商法(36/2005/QH11)にあたり、押印前に決める7項目を「AかBか」で整理します。
「総代理店」と呼んでいる契約が、法律上どちらなのか
商法は第166条〜第177条で「代理店(đại lý thương mại)」を規定し、第166条はこれを、代理店が自らの名で委託者のために物品を売買し報酬を受け取る活動と定義します(JETRO訳)。一方、買い取って在庫として売る「販売店(nhà phân phối)」に独立した章はなく、物品売買として扱われるためこの縛りがかかりません。
取り違えは表題と中身が食い違うときに起きます。表紙が「総代理店契約書」でも、条項が「乙は甲より本製品を買い取り、乙の責任と計算において販売する」なら販売店契約です。適用法を決めるのは呼び名ではなく中身です。
代理店契約と販売店契約の違い
| 判断基準 | 代理店契約(第166〜177条) | 販売店契約(物品売買) |
|---|---|---|
| 商品の所有権 | 引き渡し後も委託者に残る(第170条) | 決済で相手方へ移る |
| 在庫リスク・資金 | 原則メーカー側 | 原則相手方 |
| 顧客への販売価格 | 委託者が決められる(第172条1項) | 相手方が決める |
| 解除の事前通知 | 書面通知から60日以上(第177条1項) | 定めなし |
| 解除時の補償金 | メーカー側から通知すると発生し得る(第177条2項) | 定めなし |
商法第177条 — 通知60日と「年数×1ヶ月分」の補償
代理店型で効いてくるのが第177条(代理店契約の期間)です。
- 解除の通知から60日以上経たないと終了しない(1項)。原文は「bằng văn bản(書面により)」通知した日から起算とあり、口頭では時計が動きません。
- 委託者(メーカー)側から通知した場合、代理店は補償を請求できる(2項)。金額は代理店として活動した各年につき1ヶ月当たりの平均報酬(1年未満ならその期間の1ヶ月平均)。5年続いた関係なら月額報酬の5ヶ月分が目安です。
- 代理店側から解除を申し出た場合、代理店に補償請求権はない(3項)。
実務で大きいのは、1項も2項も**「別段の合意のない限り」で始まる**点です。契約書が黙っているときの初期設定にすぎず、書けば動かせ、書かなければ相手方に有利な設定が残ります。
押印前に決める7項目
正解は一つではなく、撤退・切り替えをどれだけ想定しているかで変わります。
| 決める項目 | A | B | 迷ったときの目安 |
|---|---|---|---|
| 1. 契約の型 | 代理店 | 販売店(買い取り) | 売価と棚を管理したいならA、出口の自由度ならB |
| 2. 独占の有無 | 最初から独占 | 非独占で走り実績を見る | 実績を自社で検証できていないならB |
| 3. 独占の範囲 | 全国一律 | 地域別(北部・南部)やチャネル別 | 南北で商流が分かれるのが実態。確証がなければB |
| 4. 期間 | 短期+自動更新 | 長期+中途解約条項 | 相手が初期投資を求めるならBで期間を与え出口を確保 |
| 5. 最低購入数量 | 数量を約束させる | 販売目標として置く | Aは未達時の効果まで書けて初めて意味を持つ |
| 6. 競合品と自社直販 | 競合品の取扱を禁止 | 自社の直販・EC・越境の留保を明記 | 相手が販売網を持つほどAは通りにくい |
| 7. 商標の名義 | 自社名義で出願 | 相手方名義を認める | 迷う余地なくA |
最低購入数量と中途解約は「未達のときどうなるか」まで書く
「年間◯個」とだけ書いた契約書は、未達時に何が起きるかがなく「話し合う」で終わります。数量より未達の効果を書いてください。(1)独占が自動的に非独占へ変わる、(2)対象地域が縮む、(3)解除できる、の3段階です。
年間数量を契約年度で区切るときは、テト休暇で1〜2月の出荷が構造的に薄くなる点も織り込みます。契約年度の切り方と発注の締め切りはテト前後の発注逆算表で先に確認してください。
乙が各契約年度において別紙に定める最低購入数量を達成しなかった場合、甲は、当該契約年度の末日から30日以内に乙へ書面で通知することにより、乙に付与した独占的販売権を非独占的販売権に変更することができる。この場合、甲は第三者へ本製品を販売し、または他の販売店を指名することができる。
甲および乙は、本契約の有効期間中であっても、相手方に対し6ヶ月前までに書面により通知して本契約を解約することができる。本契約がベトナム商法上の代理に該当する場合、当該通知期間は60日を下回らないものとする。本契約の終了に際し、両当事者は、名目のいかんを問わず相手方に補償金を請求しないものとする。ただし強行法規により認められる請求を妨げない。
後段が第177条2項の「別段の合意」にあたります。免除がベトナムの裁判所や仲裁でどこまで通るかは事案によるため、文言は必ず弁護士にご確認ください。数量の水準は品目と工場で大きく変わり、相場として書ける数字はありません。
💬 輸出入の実務まで含めて設計したい場合もご相談ください。 輸出入サポートやOEM・製造委託との組み合わせもご提案できます。
商標をどちらの名義で登録するか
ベトナムの知的財産法は先願主義(第90条)です。実務では、交渉と並行して相手方が自社名義で出願し、後から「独占を続けるなら商標はこちらで持つ」と交渉材料にされます。2022年の改正法で悪意(bad faith)出願が異議・無効の根拠になりましたが、立証には時間も費用もかかります。先に自社名義で出すのが、いちばん安い回避策です。契約書には商標権の帰属と、終了後の使用停止・ドメイン返還まで書きます。
準拠法と紛争解決地も同時に決めます。ベトナムは1958年のニューヨーク条約に1995年加入済みですが、国内での執行には裁判所の手続が必要です。相手方の資産がベトナムにしかないなら、勝った後に何ができるかまで見て選びます。
こうなったときどうするか
初年度の最低購入数量が未達。 未達条項を確認し、効果が書かれていれば期限内に書面で通知し、なければ覚書で追加します。
独占を持ったまま売らない。 数量の定めがなければ、報告義務(月次の販売数量・在庫・取引先リスト)の不履行を足がかりにします。押印前に必ず入れる条項です。
期間中に別のパートナーへ切り替えたい。 中途解約条項があればそれに従い、なければ代理店型は第177条1項の書面通知60日が基準で、2項の補償が残ります。在庫の引き取り、未払金の清算、công bố の申請者名義の移管まで設計しないと、切った後に販売が止まります。
相手方が自社商標を先に登録していた。 現地代理人に異議・無効審判の可否を確認しつつ、独占解除と商標返還をセットにした交渉に切り替えます。
納品した製品に不良が出て、独占先から返品と補償を求められた。 契約の型(代理店か販売店か)で誰の在庫かが変わるため、まず所有権の移転時点を確認します。通知期限と残す記録の実務は不良・納期遅延が起きた後の判断にまとめています。
関連記事
- 販売代理店・総代理店の選び方
- 最低ロット(MOQ)の考え方
- 製品登録(công bố)の進め方
- ベトナムの支払条件
- 進出でよくある失敗
- 販路開拓・販売代行の実務
- テト前後の発注逆算表 — 前倒しか明けか
- 不良・納期遅延 — 作り直すか値引きか
- 現地総代理店・販売代行のサービス
よくある質問(FAQ)
Q. 日本語の「総代理店」は、商法のどの形態にあたりますか。 A. 第169条2項の「専属代理店(đại lý độc quyền)」が一定地域で1社に委託する形態で、日本語の「総代理店=独占」に近いのはこちらです。3項の「総代理店(tổng đại lý)」は副代理店網を自ら組織する代理店という別概念です。翻訳で入れ替わるため、ベトナム語の条文で確認を。
Q. 補償金の「報酬」には何が含まれますか。 A. 第171条は代理店の報酬を手数料または価格差額としています。買い取り型の粗利はこの「報酬」と位置づけが異なり、算定は事案ごとに争いになり得るため金額は断定できません。
まとめ
独占を渡すかの前に、代理店型(所有権を残す・通知60日と補償がかかり得る)か販売店型(買い取り・出口は契約書次第)かを決める。これが最初の分岐です。残る6項目も条項の形にして初めて契約書になります。
法令の記載は2026年9月11日時点で確認したものです。商法2005年(36/2005/QH11)は現在も有効で、直近では広告法改正(法律75/2025/QH15)に伴う一部改正が2026年1月1日から施行されています。改正が続くため契約前に最新の条文を確認し、最終的なレビューは必ず弁護士にご依頼ください。本記事は法務助言ではありません。条文はJETROの日本語訳とWTOの英訳で確認しました。