社内で「この部品、ベトナムでも作れないか」という話が出て、調達か技術の担当に候補を出すよう指示が回る。そこで最初に手が止まるのは比較検討ではなく、そもそも候補の名前が3社も挙がらないという段階です。
検索して出てくるのは支援会社のサービス紹介ばかりで、「弊社にご相談ください」で終わる。相談も選択肢ですが、自分の手元でどこまで候補を広げられるのかが分からないままだと、見積を取る前から相手の土俵に乗ることになります。
本記事は、工場の良し悪しを判断する話でも見積を比べる話でもありません。候補リストをゼロから作る、その1工程だけを扱います。どこを見れば名前が集まり、集めた名前をどう削り、自分で探すのと代行に任せるのをどこで分けるのかを順に整理します。
この記事が扱う範囲 — 候補の名前を集めて絞る工程だけです。集めた相手に渡す条件は加工方法で変わるため、切削加工・板金・プレス・鋳物・アルミダイカスト・樹脂射出成形の各記事に分けました。求める書類は品質書類、すでに中国で作っている部品を移す場合は部品の切り替え手順が入口になります。工場を見る手順は工場の監査・視察、探索そのものを委託する話は調達代行です。
探す前に決める3つ — 決まっていないと見積が返ってこない
探し始める前に、図面・数量・材質の3点が手元にあるかを確認してください。この3つが欠けたまま問い合わせても、相手は見積を返せず、探索そのものが空回りします。
- 図面または仕様書があるか。 完成図面でなくても、寸法の分かるポンチ絵と要求機能があれば話は進みます。「現物と同じものを」だけでは相手は工程を組めません。
- 想定数量と発注ロットの見込み。 年間何個を何回に分けて発注するのか。総量が同じでも、まとめて1回か毎月かで引き受けられる工場が変わります(MOQと小ロット交渉)。
- 材質・規格の指定と、代替の可否。 JISの材質記号で指定する場合、ASTMやISOに「相当材」はあっても完全に同一の材料があるとは限りません。対応表は目安と考え、同等品として扱ってよいかは案件ごとに確認する前提で書いてください(図面と公差の詰め方)。
この3点が固まっていれば、初回の問い合わせで「見積可否」まで返ってきます。固まっていないと、返ってくるのは会社案内だけです。
💬 「ベトナムで作れる部品かどうか」の段階からご相談いただけます。 Sunsho Tradeはご要件を伺ってベトナム国内のサプライヤーを探し、選定・検品・貿易書類の準備・輸出手続きまで一括で代行します。詳しくはベトナムからの調達・輸出サポート、ご相談はお問合せフォームまたはLINEからどうぞ。
探し方は6ルート。どれを選ぶかは部品の性質で決まる
候補の名前を集める経路は、大きく6つあります。どれが優れているという話ではなく、扱う部品と社内に割ける工数によって、最初に開くべき扉が違います。
| 探し方 | 向いている場面 | かかる手間 | 言語 | 裏取りのしやすさ |
|---|---|---|---|---|
| 公的機関の無料ディレクトリ | まず母集団を広げたい | 低(資料を読むだけ) | 日本語の資料がある | 掲載は発行時点。現況は別途確認 |
| 部品調達展示商談会・専門展示会 | 同じ日に複数社を並べたい | 中(渡航と事前準備) | ジェトロ主催回は日本語で申込可 | 担当者に直接聞ける。最も高い |
| 製造業向けB2Bポータル | 加工方法や設備から絞りたい | 低〜中(検索と一次連絡) | 英語中心。越語のみの掲載もある | 掲載は自己申告。追加確認が必要 |
| 工業団地経由 | 立地や物流条件を先に固めたい | 中(団地側への照会) | 英語窓口の有無は団地による | 所在地と入居実態は確かめやすい |
| 日系ネットワーク・既存取引先の紹介 | 同業での実績を重視したい | 低(依頼するだけ) | 日本語 | 紹介者の評価が付く。高い |
| 現地の調達代行に委託 | 社内に工数も現地の目もない | 低(要件を渡すだけ) | 日本語 | 代行側が訪問して確認できる |
初回であれば、公的機関のディレクトリで母集団を作り、紹介ルートで裏を取り、展示商談会で会うという組み合わせが現実的です。B2Bポータルと工業団地経由は、加工方法や立地の条件がはっきりしている案件で効きます。6ルートのうち「現地代行」だけは性格が違い、探索そのものを外に出す選択です(調達代行の進め方と委託先の選び方)。
公的機関の無料ディレクトリ — 発行年と住所表記を必ず見る
ジェトロ(日本貿易振興機構)は、ベトナムの裾野産業向けに企業リストを無料で公開しています。有料データベースを契約する前に、まずここを開くのが合理的です。
ベトナム裾野産業「優良企業」のページには、地場企業を紹介する「ベトナム優良企業 北・中部ベトナム編」「ベトナム有望企業 南部ベトナム編」に加え、日系・外資のサプライヤーをまとめた「ベトナム北中部日系製造業・関連商社サプライヤーダイレクトリー」「ベトナム南部 日系・外資サプライヤーリスト」などがPDFで置かれています。
ここで必ず見てほしいのが資料ごとの発行年月です。同じページ上でも、2026年に更新された版と2017年発行のまま残っている版が並んでいます。検索から直接PDFに着くと、何年の資料か分からないまま名前を書き写してしまいます。古い版は「候補の手がかり」までと割り切ってください。
もうひとつ、ベトナム特有の落とし穴があります。2025年7月1日、地方行政が63省・市から34省・市(6つの中央直轄市と28省)へ再編されました(ジェトロ ビジネス短信)。再編前のリストの住所表記は現在の行政区画と一致しません。省名で検索しても出てこない、地図上の位置が掴めないという事態が起きるため、古い資料の住所は鵜呑みにせず、企業名と工業団地名から現況を確かめてください。
業界団体を入口にする手もあります。ベトナム裾野産業協会(VASI/Vietnam Association for Supporting Industries)は金型・治具、金属加工、電気電子部品、樹脂・ゴム部品などの製造業を中心に会員を持ち、分野から当たりを付けられます。
展示商談会・専門展示会 — 同じ日に複数社を並べて見る
同じ日に複数社の担当者と会い、同じ質問を同じ条件で投げられる。これが展示会ルートの最大の利点です。メールの往復では日数のかかる比較が、会場では短時間で片づきます。
ジェトロは、日系企業を買い手・ベトナム企業を売り手として引き合わせる「部品調達展示商談会(Supporting Industry Show)」をハノイとホーチミンでそれぞれ開催しています。直近では第14回ホーチミン部品調達展示商談会が2026年7月1〜4日に開かれ、日系22社・ベトナム企業22社の計44社が参加、4日間で2,100件以上の商談が行われました(ジェトロ ビジネス短信)。ハノイでは2025年8月に第11回が開催されており、両都市で別々に回を重ねています。開催時期と申込期限は回ごとに変わるため、ジェトロの案内で最新回を確認してください。
一般の専門展示会も候補です。ホーチミン市のサイゴン展示コンベンションセンター(SECC)では、精密加工・製造技術の「MTA Vietnam」(Informa Markets主催、2026年は7月1〜4日に第22回。上記の商談会はこれに併催)と、金属加工の「METALEX Vietnam」(RX Tradex主催)が開かれています。会期・会場は年によって変わり得るため、主催者の公式サイトで確認してください。
展示会に行く前に、先ほどの3点(図面・数量・材質)を印刷して持つことをおすすめします。ブースでその場に出せるかどうかで、会話が会社案内の交換で終わるか見積の話まで進むかが決まります。
💬 展示会に行く前の準備や、現地での同行もご相談いただけます。 Sunsho Tradeはホーチミン拠点で、サプライヤーの探索から選定・検品・輸出手続きまでを現地で代行します。ベトナムからの調達・輸出サポートをご覧いただくか、LINEからご連絡ください。
ロングリストをショートリストに落とす5つの基準
名前が20社集まっても、全社に同じ手間はかけられません。実務の難所はリストの入手先ではなく、そこから3社に削る基準のほうです。
次の5点を、電話1本かメール1往復で聞ける形に落としておきます。
- 内製している工程の範囲。 どこまで自社で持ち、どこから外注するのか。外注が悪いのではなく、外注の範囲を答えられない相手は工程管理ができていないという判断材料になります。
- 同種部品の生産実績。 同じ加工方法で、同じくらいの寸法・材質のものを作った経験があるか。業界が違っても、工程が同じなら実績として読めます。
- 図面や仕様を読める体制。 図面を渡して、公差やデータムの質問が返ってくるか。質問が一切来ない場合は、読めているのではなく読んでいないことがあります。
- 認証と検査体制の有無。 ISO 9001、自動車向けのIATF 16949、航空宇宙向けのAS9100など。証明書は規格番号だけでなく**版・有効期限・認証機関・適用範囲(スコープ)**まで見てください。適用範囲が別工場や別製品群になっている例があります。
- 英語または日本語での応答速度。 初回問い合わせから返信までの日数と、回答の的確さ。探索段階の応答は、量産後の連絡の取りやすさとほぼ相関します。
材質証明や検査成績書の呼び名(Mill Test CertificateとEN 10204の型式区分など)は英語のやり取りで混乱しやすい部分です。何をいつ求めるかはベトナム部品調達の品質書類に整理しました。
「工場」として出てくる会社が、実は仲介であることがある
リストや検索結果に工場として並んでいる会社が、自社設備を持たない仲介であることがあります。これはベトナムに限った話ではなく、製造委託の商流ではどの国でも起きる構造的な現象です。
仲介が入ること自体は問題ではありません。複数工場を束ねて小ロットをまとめたり、言語と貿易の実務を引き受けたりする役割には価値があります。困るのは仲介であることを伏せたまま「当社の工場です」と説明された場合で、不具合が出たときに誰が直すのか、工程変更を誰が承認するのかが分からなくなります。
見分けるのは難しくありません。次の3つを聞けば輪郭が見えます。
- 設備リストを出してもらう。 機種名・台数・加工可能サイズまで書けるか。台数と能力が生産量と釣り合っているかも見ます。
- 工程の内製範囲を聞く。 「材料調達・加工・熱処理・表面処理・検査のうち、どこを自社でやりますか」と工程名を並べて聞くと、曖昧な答えが出にくくなります。
- 所在地と訪問可否を聞く。 住所を出せるか、いつなら見学できるか。訪問を断る理由を説明できない場合は、一度立ち止まる材料になります。
そのうえで、最終候補は実際に見に行くのが確実です(工場の監査・視察ガイド)。中国から生産を移す前提ならチャイナプラスワンでベトナム調達も併せてご覧ください。
初回コンタクトで送る7項目と、自分で探すか代行かの分かれ目
候補が決まったら、最初のメールに次の7項目を入れてください。ここが揃っていると、返信の質で相手の力量が測れます。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 品目 | 部品名、加工方法、用途(機密でない範囲で) |
| 図面・仕様 | 図面番号、添付形式、機密保持契約の要否 |
| 材質・規格 | 規格名と記号、代替を認めるかどうか |
| 数量・頻度 | 年間数量、1回あたりのロット、発注頻度 |
| 検査記録 | 求める書類の名称と型式、提出のタイミング |
| 納期 | 試作・初回量産の希望時期 |
| 使用言語 | 日本語・英語・ベトナム語のどれでやり取りするか |
タイミングにも注意が要ります。旧正月(テト)の前後は、ベトナム側の応答と立ち上げが動きにくい期間です。この時期に初回接触を始めると、返信の遅れが相手の能力不足なのか時期の問題なのか判別できません(テト前後の発注逆算表)。
自分で探すか代行に任せるかは、次の3つで分かれます。
| 判断基準 | 自分で探す | 現地代行に任せる |
|---|---|---|
| 社内の工数 | 探索と往復に人を割ける | 担当者が兼務で時間が取れない |
| 現地訪問 | 渡航して自社の目で見られる | 渡航の頻度を確保できない |
| 品目の特殊性 | 標準的な加工で候補が広い | 工程が特殊で候補の見極めが難しい |
一方に決め切る必要はなく、母集団づくりは自分で、訪問と裏取りは現地にという分担も現実的です。見積の集め方を先に整えておくと、どちらでも比較が成立します(見積もり(RFQ)の取り方)。なお費用や所要期間は品目と工場で大きく変わるため、「何週間で見つかる」といった一般論は自案件に当てはまらないものとして扱ってください。
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よくある質問(FAQ)
Q. 日本にいながらベトナムのサプライヤーを探せますか。 A. 候補の名前を集めるところまでは日本にいても進められます。公的機関の無料ディレクトリ、業界団体の会員情報、B2Bポータルはいずれもオンラインで見られるためです。ただし最終候補を決める前に工場を見る工程は残ります。渡航が難しければ、現地で見る役割だけを分けて委託する方法があります。
Q. 英語だけでやり取りを進められますか。 A. 英語の窓口を持つ企業は珍しくなく、初回の問い合わせと見積の往復は英語で成立することが多くあります。一方で図面の細かい解釈や工程変更の相談になると、現場のベトナム語に訳される段階で意図がずれることがあります。使用言語は初回メールで明示し、重要な合意は文書に残してください。
Q. 小ロットでも受けてくれる工場は見つかりますか。 A. 見つかる可能性はありますが、最低ロットは工場の設備と生産計画で大きく変わるため一律の目安はありません。探索段階で数量を正直に伝えたほうが、受けられない工場を早く外せます。
Q. 公的機関のリストに載っている企業なら安心と考えてよいですか。 A. 掲載は候補を探す手がかりであって、品質や納期を保証するものではありません。掲載時点と現在で設備・体制が変わっている可能性もあります。リストは母集団づくりに使い、絞り込みは本記事の5基準と実地確認で行ってください。
まとめ
ベトナムで部品サプライヤーを探す工程は、母集団を作る・絞り込む・確かめるの3段に分かれます。詰まるのはたいてい最初の段ではなく、名前は集まったのにどれを残せばいいか分からない2段目です。
- 探し始める前に図面・数量・材質の3点を固める。これが無いと相手は見積を返せない
- 探索ルートは6つ。公的機関のディレクトリで母集団を作り、紹介と展示商談会で裏を取る組み合わせが初回には現実的
- 公的資料は発行年を必ず確認する。2025年7月の行政区画再編で住所表記が変わり、古い版の所在地は現況と一致しない
- 絞り込みは、内製範囲・同種実績・図面を読む体制・認証のスコープ・応答速度の5点で
- 「工場」として出てくる会社が仲介である場合に備え、設備リスト・工程の内製範囲・訪問可否を聞く
- 費用と期間は品目と工場で大きく変わるため、一般的な数字を自案件の前提にしない
Sunsho Tradeはホーチミン拠点で、ご要件を伺ってベトナム国内のサプライヤーを探し、選定・検品・貿易書類の準備・輸出手続きまでを一括で代行しています。候補が挙がらない段階からでも、お気軽にご相談ください。