中国のダイカスト調達を一部でもベトナムへ振り分けたい——そう考えて図面を送り、単価表が返ってきた。数字だけ見れば話は早い。ところが量産が一年、二年と進んだあたりで、初回の見積書には一行も書かれていなかった話が出てきます。寸法が公差の端に寄ってきた、組立工程で漏れが出た、バリ取りは別料金だと言われた——。

こうしたズレは品質の良し悪しというより、契約の時点で誰も決めていなかったことから生まれます。高圧アルミダイカストを発注する調達・技術購買の担当者に向けて、単価交渉の前に潰しておくべき3つの論点を整理します。Sunsho Tradeは自社工場を持たないため、どの工場の肩も持ちません。買う側の代理人として、相見積を同じ土俵に載せる視点で書きます。高圧ダイカスト以外の鋳造工法はベトナムの鋳造品調達で扱います。

この記事が扱う範囲 — 溶けたアルミ合金を高圧で金型へ押し込む高圧ダイカストに限った、契約前の取り決めです。砂型・精密鋳造など重力で流し込む工法は鋳物調達、削り出しは切削加工、板材は板金・プレス、樹脂は射出成形にあります。工法を問わない論点は、書類が品質書類、候補集めがサプライヤーの探し方、中国からの移管が部品の切り替え手順です。

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見積書に表れない3つのズレ

ダイカストの見積は「型は新品、検査は外観、加工は含まない」という暗黙の前提に立っていることが多く、その前提がずれたまま量産に入ると必ず後年に表面化します。

判断基準ズレ1 型寿命ズレ2 内部欠陥ズレ3 二次加工範囲
見積時に見えるか見えない見えない見えにくい
効いてくる時期量産の数年目日本側の組立・市場初回納入時
動く金額更新型の費用回収・選別・ライン停止単価そのもの
潰す手段保証ショット数と判定基準図面への欠陥許容基準工程別の含む/含まない
決めるタイミング初回見積の段階図面を出す段階相見積を出す段階

どれも工場の実力ではなく取り決めの有無の問題です。優良な工場を選んでも、決めていなければ同じことが起きます。

ズレ1 型寿命 — 何ショットまでを誰が保証するか

提示された単価は、金型が健全な状態での数字です。ショット数が進めば金型は消耗し、寸法と面品位は動きます。

代表的な劣化がヒートチェック(金型表面の亀甲状のひび割れ。製品には肌荒れとして転写される)と焼付き(金型と製品の金属が反応・溶着する現象)です。合意すべきは4点です。

  • 保証ショット数:見積書か型製作の合意書に数字で明記する。
  • 寿命到達の判定基準:寸法が公差を外れたとき、ヒートチェックが指定範囲を超えたとき、など誰が見ても同じ判断になる基準にする。
  • 更新型の費用負担:全額発注側か、按分か、単価に織り込み済みか。
  • メンテナンス記録の提出:清掃・補修の履歴。これがないと寿命の議論は水掛け論になります。

水準そのものは材質・形状・肉厚・ショットサイクル・金型鋼種で大きく変わるため、他社の数字を持ち込んでも意味がありません。重要なのは水準ではなく、数字と判定基準が文書にあるかどうかです。金型をめぐる契約論点はベトナム製造委託の金型管理にまとめています。

ズレ2 内部欠陥 — 外観では見えないものをどう規定するか

湯回り不良は外から見えますが、内部の巣は外観検査では見つかりません。耐圧部品・締結部・薄肉部でここを規定し忘れると、日本側の組立工程か市場で出ます。

湯回り不良は溶湯が金型の隅々まで行き渡る前に凝固し、形状が欠ける不良で、外観で判別できます。一方、(鋳巣)は内部の空隙の総称で、凝固収縮による引け巣と、ガスの巻き込みによるガス巣に大別されます(英語ではまとめて porosity)。巣は見積書にも外観にも現れず、しかし耐圧性と強度を直撃します。

判断基準外観検査切断調査X線透過試験(RT)産業用CT気密・耐圧試験
分かること表面の不良断面の巣の実態内部欠陥の有無と概略位置欠陥の位置と形状を立体で実使用条件での漏れ
製品を壊すか壊さない壊す壊さない壊さない原則壊さない
全数に使えるか使える使えない条件次第通常は抜取り使える
主な用途全数の外観選別条件出し・定期監視重要部位の保証不具合解析・初期評価耐圧部品の出荷判定

図面と仕様書に落とすのは次の4点です。

  • 欠陥許容基準を部位ごとに書く:一律だと必要な部位が守られず、不要な部位で歩留まりを落とします。「この加工面から深さ何mmまでで、径いくつ以上の巣を認めない」という形に。
  • 切断調査の頻度:ロット頭・条件変更時・定期のどれで行い、誰が判定するか。
  • 耐圧・気密試験の要否と条件:試験圧、保持時間、判定漏れ量まで指定する。
  • X線透過試験の設備が自社か外注か:外注なら納期と責任分界点が変わります。

外観検査の抜取り基準(AQL)の考え方はベトナム工場の品質検査(QC)にあります。押さえたいのは、外観AQLをどれだけ厳しくしても内部の巣は1個も拾えないという差分です。

💬 「内部欠陥の基準を図面にどう書けばいいか分からない」——ここで止まる案件が多い部分です。 要件を伺い、サプライヤー選定から検品・輸出手続きまでを現地で代行します。お問合せフォームLINEへ。

ズレ3 二次加工 — どこまでを一社が持つか

単価はどこまでの工程を含むかで大きく変わります。しかも工程の一部が別会社に外注されている場合があり、そうなると責任分界点と納期が曖昧になります。

相見積を出す全社に、同じ表で埋めてもらうのが最も効きます。

工程含む/含まない自社内か外注か外注先の開示可否
バリ取り
ゲート・オーバーフローの除去
ショットブラスト
機械加工(タップ・座繰り・合わせ面)
表面処理(アルマイト・塗装・粉体塗装)
組立・部品圧入
最終検査・梱包

外注が挟まる場合の確認は3つです。責任分界点(不良が素材起因か加工起因かを誰が判定し費用を持つか)、納期の積み上がり(工場間の横持ちで日数と変動幅が増える)、図面と検査基準が外注先まで届いているか。加工精度が主論点の部品ならベトナムの機械加工部品調達も併せてご覧ください。

RFQに載せるダイカスト固有の情報

相見積が比較不能になる原因は、各社が別々の前提で見積っていることです。

RFQ全般の作り方は製造委託の見積もり(RFQ)の取り方にあります。ダイカストでは以下を追加します。

  • 投影面積と想定の型締力(トン数):型締力は、製品・ランナー・オーバーフロー・ビスケットを含む鋳造面積に鋳造圧をかけた型開力から算出されます。示せば保有マシンで対応可能かを工場が即答できます。
  • 最大肉厚と最小肉厚:厚肉部は引け巣、薄肉部は湯回り不良のリスクに直結します。
  • 抜き勾配:指定がないと各社が独自の前提を置きます。
  • 要求材質と規格の表記:ADC12 は JIS H 5302(アルミニウム合金ダイカスト)に規定された合金記号です。海外相当材は米国の A383.0(アルミニウム合金ダイカストを規定する ASTM B85/B85M に収載)、EN の AC-46000 系、中国 GB の YL113 が概ね相当とされますが、成分範囲は完全には一致しません。EN 側は資料によって AC-46000 と AC-46100 のどちらを当てるかが割れます。相当材で通すなら記号ではなく成分範囲そのものを合意してください。
  • 公差の区別:鋳放し寸法と機械加工後の公差を分けて書く。鋳放し側は JIS B 0403(鋳造品-寸法公差方式及び削り代方式)の公差等級のような共通の物差しで指定すると解釈のぶれが減ります。
  • 年間数量・ロットサイズ・二次加工範囲:前述の表を添付します。

用語の共通化に不安があれば、日本側には一般社団法人日本ダイカスト協会のような業界団体があり、資料の参照先になります。

工場を見るときのダイカスト固有の着眼点

ダイカスト工場は見学しても「機械が並んでいる」以上のことが読み取りにくい現場です。見るべきは設備より、条件を記録して管理しているかどうかです。

監査の進め方全般はベトナム工場の監査・視察ガイドにあります。固有の確認点は次のとおりです。

  • 溶解炉・保持炉の温度管理記録:記録が後追いで書かれたものになっていないか。
  • 脱ガス処理の有無と方法:ガス巣の発生量に直結します。
  • ショット条件の記録:射出速度・鋳造圧・サイクルタイムが機台ごとに残り、条件変更の履歴があるか。
  • 金型メンテナンス台帳:ショット数のカウントと補修履歴。ズレ1の議論はここが実在するかで決まります。
  • 成分分析と寸法検査の体制:スペクトロメーター(発光分光分析装置)や三次元測定機を自社で持つか、外部委託か。

自動車部品では IATF 16949:2016 の認証有無が話題になります。ISO 9001:2015 を前提に自動車産業固有の要求を上乗せした規格で、ISO/TS 16949 を置き換えたものです。ベトナムの工場が皆持っている/持っていないという一般化はできません。個社ごとに確認してください。

書類の呼び方と、Sunsho Tradeの役割

量産後の実務は、書類の呼称ひとつで止まります。

日本の現場では材料証明を「ミルシート」と呼びますが、これは本来鋼材メーカーが発行する検査証明書の通称で、ダイカスト品に当てると話が通じないことがあります。要求すべきは成分分析表(Chemical Composition Report)と、寸法・外観の結果をまとめた検査成績書(Inspection Report)です。

輸入時には、日ベトナム経済連携協定(VJEPA、原産地証明は Form VJ)、日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP、Form AJ)、CPTPP、RCEP の利用を検討できます。ただし実効税率は品目と協定で変わるため、HSコードを特定して個別に確認が必要です。

当社の立ち位置も正確に書きます。Sunsho Tradeは自社工場を持ちません。 要件を伺ってベトナム国内の信頼できるメーカー・サプライヤーから調達先を探し、価格・品質・納期を踏まえて選定し、相見積の取りまとめ、検品・貿易書類の準備・輸出手続きまでを代行します。特定の工場を売り込む立場にないので、3つのズレを買う側の物差しで全社に同じように当てられます。

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よくある質問(FAQ)

Q. 金型が寿命に達したとき、更新型の費用は誰が負担するのが普通ですか。 A. 「普通」が存在しないため、必ず初回見積の段階で決めてください。合意がないまま寿命を迎えると、費用負担の前に「そもそも寿命なのか」という判定から議論が始まり、生産が止まります。

Q. 外観検査だけで、内部の巣は分かりますか。 A. 分かりません。外観で判別できるのは表面に現れる不良だけです。内部を保証したい部位があるなら、切断調査・X線透過試験(RT)・産業用CT・耐圧/気密試験のどれをどの頻度で行うかを図面と仕様書に明記してください。

Q. 単価が他社より大幅に安い見積が来ました。どう見ればよいですか。 A. まず二次加工の範囲、次に検査の範囲、最後に材質の成分範囲を疑ってください。本記事の二次加工チェック表を全社に同じ形式で埋めてもらえば、多くの場合その場で説明がつきます。

Q. ADC12 と指定すれば、どの国の工場でも同じ材料が出てきますか。 A. 同じとは限りません。海外の相当材は成分範囲が完全には一致せず、EN 側の当て方は資料によって割れているほどです。記号ではなく成分範囲そのものを合意し、成分分析表の提出を条件にしてください。

Q. 二次加工を別会社に外注している工場は避けるべきですか。 A. 避ける必要はありません。問題は外注の存在が発注側に見えていない場合です。工程表と責任分界点、納期の内訳、図面が外注先まで届く仕組みを説明できるなら、減点材料にはなりません。

まとめ

後から効いてくるズレは、型寿命・内部欠陥・二次加工範囲の3つです。保証ショット数と判定基準・更新型の費用負担を初回見積で文書にすること、内部欠陥の許容基準を部位ごとに図面へ落として検査手法と頻度まで指定すること、二次加工の含む/含まないと外注の有無を全社に同じ表で埋めてもらうこと——やることはこの3つに尽きます。

単価・リードタイム・ショット数・不良率といった数値は、品目・形状・材質・工場によって大きく変わります。他社の数字を持ち込むのではなく、自社の図面を当てて実際の回答を並べるしかありません。