「中国以外で作りたい。タイ、台湾、マレーシアのどこがよいか」というご相談をよくいただきます。ところが国を先に決めて見積もりを集めると、各社の前提がばらばらで比べられない、ということが起こりがちです。

国の選択は大事ですが、順番としては三番目です。先に「製品が何を証明しなければならないか」と「どこへ運ぶか」を決めると、候補の国は自然に絞られます。本記事は、タイ・台湾・マレーシアでの製造委託を扱う各記事の入口として、判断の順番と、それぞれの論点をどの記事で詳しく説明しているかをまとめます。

💬 どの国から当たるべきか迷っていませんか? 図面か製品仕様と、販売先の国を教えていただければ、どこから探すかとその理由をお伝えします。お問合せフォーム、またはLINEからどうぞ。

最初に決めるのは「製品が何を証明するか」

最初の絞り込みは価格ではなく証明です。機械加工部品なら寸法、食品・化粧品なら許可を持つ製造者が作ったこと、ハラール製品なら誰が認証を持つか、電子機器なら中身の部品が何かを証明する必要があります。

それぞれの証明は別々の制度で行われ、その制度は国ごとに違います。国を先に決めて、後から「工場がどんな書類を出せるか」を確認すると、サンプルの段階で足りないことがわかり、国を変えるのに一番お金がかかる時期に手戻りが起きます。

製品が証明すべきこと候補を絞る前に確認すること詳しく書いた記事
寸法・公差・材質図面の完成度、検査成績書の形式、材料証明台湾の精密部品加工、タイの自動車部品
許可を持つ製造者が作った食品であること誰の許可で製造するか、製品登録の名義、輸出証明の発行機関タイの食品OEM
化粧品が正しく製造・届出されていること製造許可、製品の届出者、輸出先で求められる書類タイの化粧品OEM
自社ブランドでのハラール認証が工場・製品・ブランドのどれに付くかマレーシアのハラールOEM
ゴム・樹脂の配合と性能配合を誰が決めるか、ロットごとの試験成績マレーシアのゴム製品OEM
基板の中身と設計の権利部品表の管理、代替部品の承認、設計の所有台湾の電子機器OEM・ODM、マレーシアのEMS
金型を作る前に設計が成り立つか試作の方法、試作から量産で何が変わるか台湾の試作・小ロット生産

この表は読む順番の案内で、国の順位ではありません。どの証明も、3か国それぞれに対応できる工場があります。大切なのは、最初の問い合わせに「どんな証明を求めるか」を書き、すべての候補に同じ質問をすることです。

運ぶ先で着地コストが変わる

同じ工場価格でも、生産国と仕向け国の間に経済連携協定があるかどうかで着地コストが変わります。ここで3か国ははっきり分かれ、タイとマレーシアはASEANの協定の中にあり、台湾は日本ともベトナムとも特恵の協定がありません。

これは交渉で変わる話ではなく、制度の違いです。台湾が不利だという意味ではありません。台湾の見積もりは一般の税率をかけた後で比べ、タイ・マレーシアの見積もりは協定税率をかけた後で比べる、ということです。ただし協定税率が使えるのは、その協定の原産地規則を満たし、原産地証明を正しく用意できた場合に限られます。

生産国日本へベトナムへ
タイ日タイEPA、日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)、RCEPATIGA、RCEP
マレーシア日マレーシアEPA、AJCEP、RCEP、CPTPPATIGA、RCEP、CPTPP
台湾特恵の協定なし(WTO協定税率など一般の税率)特恵の協定なし(一般の税率)

(2026年10月17日時点で、税関の発効済みEPA一覧と、CPTPPが2022年11月29日にマレーシアについて効力を生じた旨の税関のお知らせを確認)

実務では、次の2点を押さえておくと判断が早くなります。

  1. 見積もりと一緒にHSコードをもらう。 HSコードがないと、協定税率にどれだけ意味があるのか判断できません。同じルートに複数の協定が使えることも多く、どれが有利かは品目ごとに決まります。タイ・マレーシアから日本への協定の選び方はタイ・マレーシアから日本へ輸入|EPA・AJCEP・RCEPの選び方、ベトナムの自社工場へ部材を入れる場合はASEAN部品・原料をベトナムの自社工場へ入れるで詳しく説明しています。
  2. 協定税率は国ではなく製品が満たすもの。 マレーシアで組み立てた製品でも、輸入部品の割合や工程によっては、ある協定の原産地規則を満たさないことがあります。工場が部品表と原産地規則の対応を示せるかどうかは、出荷後ではなく、候補を絞る段階で確認すべき書類の一つです。

関税・運賃・検品費・支払条件を1枚の表にそろえる方法はアジア複数国の見積もりを同条件で比較する方法にまとめていますので、本記事では繰り返しません。

生産国側の輸出の関門

製品によっては、仕向け国の規制とは別に、生産国から出すための許可が必要です。申請するのは通常その国の輸出者なので、誰が輸出者になるかを契約で決めておく必要があります。

製造委託でよく出てくるのは、次の2種類です。

技術的な製品の輸出管理。 3か国とも、戦略物資・軍民両用品の輸出管理法を持っています。台湾は貿易法第13条に基づく戦略性高科技貨品(SHTC)の規制を経済部が運用しています。マレーシアは2010年戦略貿易法(Strategic Trade Act 2010)を投資貿易産業省が所管しています。タイは大量破壊兵器関連品目の貿易管理法(仏暦2562年=2019年)が2020年1月1日に施行され、商務省の対外貿易局(DFT)が運用しています。一般の消費財はほとんど関係しませんが、電子機器・センサー・一部の工作機械・化学品・ソフトウェアは対象になり得ます。製品がそうした分野に近い場合は、最初の出荷の前に、工場または輸出者に該当・非該当の判定を書面で確認してもらってください。リストは改定されるため、判断の前に最新の条文で確認が必要です。

製造者に付く許可。 食品や化粧品は生産国の許可を受けた施設で作られ、輸入者が求める輸出証明(衛生証明書、自由販売証明書、製造証明書など)は、その許可にもとづいて発行されるのが一般的です。誰が申請し、製品が誰の名義になるかは、国と品目によって異なります。詳しくは上の表の各記事をご覧ください。

関門候補を絞る段階で工場に聞くこと
輸出管理の該当判定「この製品や部品は、貴国の戦略物資リストで判定したことがあるか。許可が必要なら誰が申請するか」
製造許可「この品目はどの許可でこの工場で作れるか。製品は誰の名義で登録するか」
輸出証明「この製品で取れる証明書はどれか。どの機関が発行し、費用は誰が持つか」
原産地証明「このHSコードで、どの協定の原産地証明を出せるか。計算を示せるか」

💬 この4つの質問を、複数の工場に現地の言葉で同時に確認し、回答を並べてお渡しします。 進め方はアジア各国からの調達をご覧ください。ご相談はお問合せフォームから。

3か国に同じ条件で見積もりを依頼する

すべての候補に同じ資料を、同じ順番、同じ取引条件で送り、回答がそろうまで国の決定を保留します。

3か国比較がうまくいかない一番の理由は、工場ごとに少しずつ違う質問をしていることです。台湾の加工会社には完成した図面で、タイの工場にはサンプル写真で、マレーシアの工場には材質を決めないまま依頼すると、回答の差は工場の差ではなく、依頼内容の差になってしまいます。

比較に耐える依頼資料には、たいてい次のものが入っています。

  • 合否を決める仕様。 部品なら公差・材質・表面処理まで入った図面、配合品なら処方の権利の扱いと販売先の規制、電子機器なら部品表と承認済みの代替部品。
  • ロットごとに求める書類の一覧。 検査成績書、材料・原料の証明書、試験成績書、仕向け国向けの輸出証明。
  • 取引条件と仕向け港。 条件を一つに決めないと、運賃や現地費用が入っている見積もりと入っていない見積もりが混ざります。
  • 数量の見通し。 初回の数量、予測、追加発注の頻度を、確約ではなく自社の計画として示します。
  • 自社で持ちたいもの。 治具・金型・版下・処方・設計データ。依頼の段階で書いていない所有権を、後から主張するのはとても難しくなります。

送る前に、候補が実在する登記済みの会社かどうかを確認します。各国の確認先はタイ・マレーシア・台湾の仕入れガイドにまとめています。

どの国でも契約で決めておくこと

どの国に決めても、2回目の発注が1回目と同じ品質になるかは、承認済みの限度見本、変更管理のルール、生産前に合意した検査基準、金型と設計の所有権の4つで決まります。

これらは国に関係なく、製造委託のトラブルの多くはここから始まります。工場が樹脂の仕入れ先や部品、外注先を連絡なく変えたとしても、契約に「変更には承認が必要」と書いていなければ、工場側から見れば約束違反ではありません。対策は、書いておくことです。

決めておくこと防げること
署名して双方で保管する限度見本「サンプルと同じ」の解釈をめぐる争い
変更の事前連絡と承認のルール材料・部品・工程・生産場所の無断変更
生産前に合意した検査基準不良かどうかの判断をめぐる争い
治具・金型・設計データの所有権の明記別の工場へ生産を移せなくなること

Sunsho Tradeは、案件ごとに製品に合う工場を探し、見極め、管理します。決まった工場の一覧に製品を当てはめるのではなく、製品から国と工場を選びます。

💬 タイ・台湾・マレーシア、どこに頼むかまだ決まっていなくても大丈夫です。 製品と販売先を伺い、候補探しの進め方からご提案します。お問合せフォーム・LINEからお気軽にどうぞ。

よくある質問

1. タイ・台湾・マレーシアで、製造委託が一番安いのはどこですか?
A. 国の単位で答えられるものではありません。価格は製品・数量・材料・工場で決まり、着地コストは仕向け国との協定でも変わります。同じ仕様・同じ取引条件で見積もりを取り、関税を含めて比べてください。

2. 台湾と日本、台湾とベトナムの間に自由貿易協定はありますか?
A. ありません。台湾原産の製品は、日本でもベトナムでも一般の税率で輸入されます。タイとマレーシアはASEANの協定やRCEPなどで日本・ベトナムへの特恵ルートがあります(各協定の原産地規則を満たす場合)。

3. 台湾やマレーシアから電子機器を買うのに輸出許可は必要ですか?
A. ほとんどの製品は不要です。台湾の戦略性高科技貨品の規制や、マレーシアの2010年戦略貿易法の対象は、リストに載った戦略物資・軍民両用品などに限られます。製品がそうした分野に近い場合は、出荷前に輸出者に該当・非該当を書面で確認してもらってください。

4. 3か国の工場に一度に見積もりを依頼してもよいですか?
A. はい。ただし同じ内容で依頼することが前提です。仕様、ロットごとの書類、取引条件、金型や設計の所有権を決めてから送ると、工場同士を正しく比べられます。

5. 国と工場、どちらを先に決めるべきですか?
A. どちらでもなく、先に「製品が何を証明すべきか」と「どこへ運ぶか」を決めます。この2つで現実的な国が絞られ、工場は同じ資料への回答の質で選びます。

まとめ

タイ・台湾・マレーシアの製造委託先は、製品が証明すべきこと、仕向け国との協定、生産国側の輸出の関門の順に絞り込み、同じ資料で見積もりを取って選びます。

どの国でも、限度見本・変更管理・検査基準・所有権の4つを契約で決めておくことが、2回目以降の品質を守ります。制度は改定されることがあるため、発注前に必ず最新情報を確認してください。


※出典:税関「EPA等発効済み一覧」、税関「CPTPPのマレーシアについての発効」(2022年11月29日)、台湾経済部「戦略性高科技貨品輸出入管理辦法」(貿易法第13条)、マレーシア投資貿易産業省「Strategic Trade Act 2010」、タイ商務省対外貿易局「大量破壊兵器関連品目の貿易管理法(仏暦2562年)」。2026年10月17日確認。