ゴム製品の委託製造でいちばん多いのは、「サンプルは合格したのに、量産品が半年後に現場で硬くなった・ひび割れた」という問題です。ゴムは同じ硬さ・同じ色でも、中身の配合が違えば油や熱、屋外の光への強さがまったく変わります。そして配合を知っているのは工場だけです。
本記事では、マレーシアの工場にゴム製品(シール、パッキン、ホース、マット、防振部品など)や樹脂の成形品を委託するときに、図面を送る前に決めておくべきことを、発注の流れに沿って整理します。工場の探し方や企業登記の確認、SIRIM、原産地証明についてはマレーシア仕入れ・委託製造の進め方と確認先にまとめているので、本記事はその次の段階、「何をどう作ってもらうか」を扱います。
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作りたい部品に合う種類の工場を選ぶ
マレーシアのゴム産業は「ラテックス製品」「タイヤ関連」「工業用・一般ゴム製品」に分かれており、シールやホース、マットのような成形品は工業用・一般ゴム製品の工場に頼みます。
マレーシア投資開発庁(MIDA)は、同国のゴム製品産業をこの3つの分野で説明しています。工業用・一般ゴム製品の分野については、自動車、電気電子、機械・設備、建設向けに、ベルト材料、ホース、シール、シート材などを作る企業群として紹介しています(2026年10月17日時点でMIDAの公表ページを確認)。
手袋のようなラテックス製品の工場は、薄い製品を作る浸漬(ディッピング)の設備と技術が中心です。圧縮成形や射出成形でつくる部品とは、設備も検査も職人の技術も違います。見積もりは出せても、毎日動かしている工程が違えば、不良率や品質の安定性に差が出ます。
候補の工場には、最初に次の3点を聞いてください。
- 社内で持っている成形方法(圧縮成形・トランスファー成形・射出成形)
- 配合ゴム(コンパウンド)を自社で練っているか、外から買っているか
- 今作っている製品の中で、こちらの部品にいちばん近いものは何か
配合を「誰が決めて、誰が持つか」を先に決める
ゴム部品の発注には、性能だけを指定して配合は工場に任せる方法と、自社の配合を渡して作らせる方法があり、どちらにするかで後から主張できる権利が大きく変わります。
多くの会社は前者です。「この油に浸かって、この温度で、何年もつこと」と性能を指定し、工場がそれを満たす配合を考えます。配合は工場のノウハウとして工場に残ります。これは普通のことですが、後で別の工場に移すときは、新しい工場が一から配合を作り、評価をやり直すことになります。
重要部品の場合や、前の仕入れ先で評価済みの配合を持っている場合は、自社の配合を渡す方法もあります。その場合は、配合が自社のものであること、自社の部品にしか使わないこと、原料を書面の承認なく変えないことを契約に書きます。
| 進め方 | 配合を持つのは | 求められること | 注意する点 |
|---|---|---|---|
| 性能を指定して工場に任せる | 工場 | 指定した試験項目の結果を毎ロット出すこと | 硬さの検査には通る「安い原料への切り替え」に気づけない |
| 自社の配合を渡す | 自社 | 原料名・調達先・練りの記録 | 現地で手に入らない原料を、工場が代替品で提案してくる |
| 工場の標準配合を使う | 工場 | カタログ値(発注書に書いた場合のみ) | カタログ値は「代表的なロット」の値で、自社のロットの値ではない |
どの方法でも、「サンプル承認後は配合を固定し、ポリマーの銘柄・充填剤・可塑剤・加硫系を変えるときは事前に承認を取り、新しい試験結果を出す」と発注書や取引基本契約に入れておきます。この一文がないと、ひとつの検査項目だけは通る安い原料に変わっていても、こちらからは分かりません。
材料の指定は「試験で確かめられる形」で書く
ゴムの材料指定は「NBR・硬さ70・黒」では足りず、ベースのゴムの種類、許容差つきの硬さ、そして試験方法と合格値を組にした数項目を書く必要があります。
図面にすでにASTM D2000の材料記号(耐熱・耐油の区分、硬さ、引張強さなどを記号で表す方式)が書かれていれば、それを使います。ない場合は、次の表が最低限の目安です。合格値は使用条件から決めるもので、本記事で一般的な数字を示すことはしません。日本の図面ではJISで指定することが多いので、対応するJISも並べました。
| 項目 | 試験方法(ISO/対応するJIS) | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 硬さ | ISO 48-4/JIS K 6253(デュロメータ) | 誰でも測る値。許容差(±何ポイント)を必ず書く |
| 引張強さ・切断時伸び | ISO 37/JIS K 6251 | 練りと加硫がきちんとできているかが分かる |
| 圧縮永久ひずみ | ISO 815-1/JIS K 6262 | 長く押しつぶされた後もシールとして効くかを決める |
| 熱老化 | ISO 188/JIS K 6257 | 一定温度・一定時間後に硬さや引張がどれだけ変わるか |
| 耐液性 | ISO 1817/JIS K 6258 | 実際に触れる油・燃料・薬品での膨潤 |
| 寸法公差 | ISO 3302-1 | ゴムは縮み・たわむので、金属部品の公差をそのまま使えない |
試験方法だけでなく、温度・時間・試験液などの条件も書いてください。「圧縮永久ひずみ JIS K 6262」とだけ書いても、条件がなければ合否が決まりません。
樹脂の成形品も考え方は同じです。ただし配合ではなく、樹脂の種類とグレード(または承認済みの同等品リスト)、着色マスターバッチと添加率、粉砕品(リグラインド)を使ってよいか・どこまで使ってよいかを指定します。正しい樹脂でも粉砕品が多すぎると衝撃強さが落ちることがあり、寸法検査では見つけられません。
💬 図面に何を書けばよいか迷ったら、使用条件からご相談ください。 使う環境・触れる液体・求める寿命を伺い、マレーシアの工場が見積もりと試験に使える材料指定に落とし込みます。お問合せフォーム・LINE
金型は「誰が払い、誰が持ち、いつ引き揚げられるか」を書面にする
金型代を払うなら、自社の所有であること、所有者表示をすること、求めたときに自社または指定先へ引き渡すことを、金型を作る前に書面で取り決めます。
代金を払っていても契約に書いていない金型は、実際には取り戻すのが難しくなります。最低限、次の項目を決めておきます。
- 所有と表示:支払い後は自社の所有物とし、社名と型番を刻印またはプレートで表示する
- 使用範囲:自社の部品の生産にだけ使い、他社向けに使わない
- 保守と寿命:日常の保守費、摩耗による修理・作り直しの費用を誰が持つか
- 取り数と設計承認:取り数、パーティングライン、ゲート・ベントの位置を承認する(バリや外観に影響する)
- 引き揚げ:生産を移すときの手順・予告期間・引き渡し時の状態
- 保管と保険:発注のない期間の保管場所と保険
ゴムの金型は、摩耗するとバリが増え、細かい形状がだれてきます。バリの許容寸法を図面に書き、工場のバリ取り基準も確認してください。金型の管理と契約条項の考え方は、ベトナムを例にした製造委託の金型管理|所有権と契約条項で詳しく説明しています。国が変わっても考え方は同じです。
試験成績書は「自社のロットについて何かを証明するもの」にする
役に立つ試験成績書は、自社の品番・配合コード・製造ロットが書かれ、指定した合格値に対する実測値が並び、どの試験所がどの方法で試験したかが分かるものです。
届く書類の中には、材料メーカーのデータシートに日付を入れ直しただけのものもあります。それはコンテナの中の製品について何も証明しません。次の項目がない成績書は受け取らないようにします。
| 成績書に必要な項目 | 何が分かるか |
|---|---|
| 品番・図面の版・配合コード | 似た部品ではなく、自社の部品の成績であること |
| ロット番号と、練り・成形の日付 | 出荷する製品の成績であること |
| 項目ごとの試験方法・条件・実測値・合格値 | 代表値ではなく、自社の指定に合格したこと |
| 試験所の名前(社内か外部か) | 数字に責任を持つのは誰か |
| 外部試験所の認定(求めた場合) | その試験方法が認定範囲に入っていること |
| 出荷を承認した人の署名と日付 | 工場の誰かがそのロットに責任を持ったこと |
マレーシアでは、試験所のISO/IEC 17025認定はマレーシア標準局(Department of Standards Malaysia)の認定制度(SAMM)で与えられます。マレーシアゴム委員会(Lembaga Getah Malaysia、英語名 Malaysian Rubber Board)もゴムの試験所を運営しています。外部試験を求めるときは、試験所の認定番号を聞き、その試験方法が現在の認定範囲に載っているかを確認してください。認定は試験所全体ではなく、試験方法ごとに与えられるものです。
試験の頻度も決めます。初回承認時と変更時は全項目、毎ロットは硬さ・寸法・外観など短い項目、圧縮永久ひずみや熱老化のような時間のかかる試験は決めた間隔で、というように分けるのが現実的です。品質書類を「いつ・何を」求めるかの全体像は、ベトナムの部品調達を例にした部品調達の品質書類——何をいつ求めるかも参考になります。
承認した品質を量産で崩さない
ロットのたどれる表示と、変更時のルールを文書にしておくことが、100回目の出荷を承認サンプルと同じに保つ方法です。
カートンごと(できれば袋や製品ごと)に、練りのバッチと成形日にさかのぼれるロット記号を付けてもらいます。承認した初品の保管サンプルを、工場と自社の両方に残しておきます。市場で不具合が出たとき、ロット記号があれば「特定のバッチの問題」か「設計の問題」かを切り分けられます。
取引基本契約には、配合・原料の仕入れ先・金型・成形条件・生産場所のどれかを変えるときは、事前に知らせて承認を取り、新しい試験結果を出すという変更管理のルールを入れます。初回の発注でいちばん抜けやすい条項です。
日本へ輸入するときに確認すること
日本に輸入するゴム・樹脂製品は、用途によって日本側の手続きが変わるため、HSコードと、食品に触れる用途かどうかを早めに確かめます。
食器のパッキンや食品機械のシールのように、食品に直接触れる器具・容器包装として販売・営業に使うものは、食品衛生法第27条に基づく輸入届出の対象です。届出の対象は食品、添加物、器具、容器包装、乳幼児用のおもちゃとされています(2026年10月17日時点で厚生労働省「輸入手続」のページを確認)。材質ごとの規格に合うかを確かめる試験が必要になることがあるため、マレーシアの工場に配合を固めてもらう前に、用途を伝えて対応する試験の準備ができるか確認してください。具体的な手続きは、輸入する港の検疫所に事前相談するのが確実です。
関税については、ゴム製品の分類は材質(加硫しているか、多孔質か)と製品の種類で変わるため、前の製品のHSコードを流用しないでください。マレーシアから日本へ輸入するときにどの協定(日マレーシアEPA・AJCEP・RCEP)を使うかはタイ・マレーシアから日本へ輸入|EPA・AJCEP・RCEPの選び方で説明しています。車用のゴム製フロアマットについてはフロアマットOEM|海外工場で作る手順と注意点をご覧ください。
同じ製品で基板や電子部品の組立も必要な場合はマレーシアEMS|電子機器の製造委託、イスラム圏向けの製品を作る場合はマレーシア ハラールOEMもあわせてご覧ください。
よくある質問
1. マレーシアのゴム工場は配合を教えてくれますか?
A. 性能を指定して発注した場合、配合は工場のノウハウなので通常は開示されません。それでも、承認後は配合を固定し、変えるときは新しい試験結果をつけて事前に承認を取る、という条件は付けられます。配合を自社で持ちたい場合は、自社の配合を渡し、契約にそう書きます。
2. 硬さだけ指定すれば十分ですか?
A. 足りません。硬さは測りやすい反面、油・熱・長時間の圧縮に対する強さは分かりません。引張強さと伸び、圧縮永久ひずみ、使用条件に合った熱老化や耐液性の試験を、試験方法と合格値を組にして指定してください。
3. 金型代を払えば、金型は自社のものになりますか?
A. 契約に書いた範囲でしか主張できません。自社の所有物であること、社名の表示、自社の部品にだけ使うこと、引き揚げの手順と時期を、金型を作る前に書面にしてください。
4. 試験成績書には何が書かれていればよいですか?
A. 品番と図面の版、配合コード、ロット番号、項目ごとの試験方法・条件・実測値・合格値、試験所の名前、出荷承認者の署名です。代表値だけのデータシートは試験成績書の代わりになりません。
5. 食品に触れるゴム部品を日本に輸入するときの注意点は?
A. 販売や営業に使う器具・容器包装は、食品衛生法第27条に基づく輸入届出の対象です。規格に合うかの試験が必要になることがあるため、配合を固める前に用途を工場に伝え、輸入する港の検疫所に事前相談してください。
まとめ
マレーシアでゴム製品・樹脂製品を委託するときは、工場の種類を合わせ、配合の持ち主を決め、材料指定を試験で確かめられる形で書き、金型と試験成績書と変更管理を書面にしてから量産に入ると、後からの品質のぶれを防げます。
サンプルの合格は出発点にすぎません。量産が承認サンプルと同じであり続けるかどうかは、発注書と契約に何を書いたかで決まります。
💬 マレーシアでのゴム・樹脂部品の立ち上げ、二社目の仕入れ先探しもご相談ください。 材料指定の整理から工場の見極め、サンプル承認、出荷まで日本語で一貫して対応します。お問合せフォーム・LINEからお気軽にどうぞ。
※出典:マレーシア投資開発庁(MIDA)ゴム製品産業のページ、マレーシア標準局(Department of Standards Malaysia)試験所認定制度(SAMM)、マレーシアゴム委員会(Lembaga Getah Malaysia)、厚生労働省「輸入手続」、ISO 48-4・ISO 37・ISO 815-1・ISO 188・ISO 1817・ISO 3302-1、JIS K 6251・K 6253・K 6257・K 6258・K 6262、ASTM D2000。2026年10月17日確認。