タイには自動車産業の厚い部品供給網があり、プレスのブラケットや切削のハウジング、樹脂のクリップを作れる工場を見つけること自体は、それほど難しくありません。案件が止まるのは別の場面です。見積もりに、こちらが想定していない前提が入って返ってくる。初回サンプルの寸法は合っているのに、図面に書いていなかった要求で不合格になる。承認書類が届いたら、自社の顧客が受け付けない様式だった。どれも、見積もり依頼のときに何を渡したかに原因があります。

本記事では、タイで自動車部品の製造委託を始める日本の会社向けに、図面と品質書類の段取りを整理します。タイのサプライヤーの探し方・企業登記の確認・原産地証明はタイから仕入れる・委託製造の進め方と確認先で扱っているので、ここでは工場との間でやり取りする技術・品質の書類に絞ります。

💬 タイへの部品の移管や、第二の調達先づくりをご検討中の方へ。 案件ごとに部品に合うタイの工場を探し、見極め、管理します。図面と書類の詰めも一緒に進めます。アジア各国からの調達、ご相談はお問合せフォームからどうぞ。

見積もりの前に、図面で固めておくこと

工場は図面に書かれていることしか見積もれないため、材料・公差・表面処理・重要特性・改訂・梱包の6点を図面と仕様書で明確にしてから見積もりを依頼します。

見積もりは、工場による図面の読み取りです。図面に書かれていない部分は、工場が自分の前提で埋めます。多くの場合、それはいちばん安く作れる前提です。あとでその前提を直すと価格が変わり、複数の工場を比べた結果も意味を失います。

図面の抜け工場が推測すること代わりに渡すもの
普通公差の指示がない、または規格の記載がない公差のない寸法をどこまで詰めるか使っている規格と等級(例:JIS B 0405、ISO 2768)を書いた普通公差の注記
材料がJISの材料記号だけで書かれているタイで手に入るどの材料で代えてよいか、ミルシートが要るか材料記号、承認済みの代替材料、求める材料証明書
「亜鉛めっき」「塗装」だけで仕様がない種類、膜厚、耐食性試験、外観基準めっき・塗装の仕様、試験方法、合否基準
2D図面と3Dモデルが食い違うどちらを優先するかどちらが優先かの明記と、それぞれの改訂番号
重要保安部位などに印がないどの特性を工程で重点的に管理するか顧客の記号で重要特性を図面に表示
改訂管理がない手元の図面が最新か全シートの改訂番号と、変更時の連絡ルール
梱包・防錆の指示がない船便と保管にどう耐えさせるか荷姿、防錆方法、箱ごとのラベル

ここで買い手が数字を作る必要はありません。必要なのは、自社の顧客がすでに持っている要求を、漏れなく工場に渡すことです。手元にないなら、工場に見積もりを頼む前にまずそれを顧客と詰めます。

年間数量、量産期間、派生品番の数も見積もりを変えます。専用の金型・治具を起こすかどうかが、ここで決まるからです。専用型を起こすなら、誰が費用を払い、誰が所有し、どこに置き、どういう条件で移せるかを書面で決めておきます。金型の所有権と契約条項の考え方はベトナム製造委託の金型管理|所有権と契約条項、見積もり依頼書の作り方はベトナム製造委託の見積もり(RFQ)の取り方にまとめています。タイの工場でも考え方は同じです。

IATF 16949の認証書で確かめること

IATF 16949は自動車産業の品質マネジメント規格で、認証書は「その工場・その範囲」を対象にしているかを確認しますが、部品そのものの承認の代わりにはなりません。

IATF 16949:2016は、それまでのISO/TS 16949:2009に代わる規格で、国際自動車タスクフォース(IATF)が管理し、ISO 9001との整合を保っています。IATFは顧客向けポータルで認証書の有効性を確認する仕組みを提供しています。スキャンした認証書を受け取るだけでなく、こちらで確認してください。

(2026年10月17日時点でIATFの公式サイトの IATF 16949:2016 の説明ページを確認)

認証書を見るときは3つを確認します。

  1. 対象の工場:認証書は工場ごとです。複数の工場を持つ会社では、認証を持つ工場とは別の工場で作ろうとすることがあります
  2. 適用範囲:認証書には対象の製品・工程が書かれています。切削で認証を受けた工場が、外注しているめっきまで認証の範囲に入っているとは限りません
  3. 顧客がそもそも求めているか:直接の取引先に認証を求める自動車メーカーもあれば、補修部品や自動車以外の用途では求められないこともあります。顧客に確認し、その答えを仕様書に書きます

認証のない工場が適している部品もあります。大事なのは、顧客が求める書類をその工場が作れるかどうかです。

PPAP:提出レベルと様式を初回サンプルの前に決める

PPAP(生産部品承認プロセス)は、量産の型と工程で作った部品を承認するための業界の標準的な手順で、どの提出レベル・どの様式にするかは、部品を受け取る顧客側が決めます。

PPAPは、米国の自動車産業団体AIAGが発行するマニュアルで定められた仕組みです。提出する書類とサンプルの一覧があり、部品提出保証書(PSW)が表紙になります。提出レベルは、保証書だけのものから、工場で全書類を審査するものまで段階があります。自動車メーカーによっては独自の様式や段階的な手順を使っています。

タイの工場に発注するときに、最初の量産試作の前に決めておくことは3つです。

  • 提出レベル:顧客にその部品のレベルを確認する。自社が顧客なら、自社で決めて注文書に書く
  • 様式:顧客独自の様式か、標準の様式か。様式を間違えると、そろえた書類を作り直すことになる
  • 言語と単位:書類は英語で、図面と同じ単位で出してもらう

よく求められる書類と、見るべき点は次のとおりです。

書類わかること確認すること
設計記録・設計変更の記録サンプルがどの改訂の図面で作られたか最新の改訂と一致しているか
工程フロー図材料から梱包までの全工程(外注工程を含む)めっき・熱処理などの外注工程と外注先が書かれているか
工程FMEA各工程で起こりうる不具合をどう評価したか図面の重要特性が取り上げられているか
コントロールプラン(QC工程表)量産で各特性をどう管理・検査するか重要特性ごとに頻度と方法があるか
寸法測定結果図面のすべての寸法に対する実測値一部ではなく全寸法が報告されているか
材料・性能試験の結果材料証明書、試験成績書仕様書で指定した方法で試験しているか
測定システム解析ゲージが図面の要求を測れるかコントロールプランに書かれたゲージと一致しているか
部品提出保証書(PSW)提出内容が要求に合っているという工場の宣言署名があり、正しい改訂を参照しているか

これらの書類を日本語と英語で何と呼ぶか、金属・樹脂・表面処理で発行元がどう変わるか、出せないと言われたときの代替は、ベトナムの例ですがベトナム部品調達の品質書類——何をいつ求めるかで詳しく整理しています。

💬 顧客がIATF認証の工場を求めているか、どの承認書類が必要か。 見積もり依頼を出す前に、一緒に整理します。部品の用途と納入先をLINEでお知らせください。

タイの強制規格(TISI)が関わる場合

車両部品の一部はタイの強制規格の対象で、その製造には許可が必要ですが、工業製品規格法には、輸出のために外国の規格で製造することを認める別の手続きがあります。

タイ工業規格局(TISI)は任意規格と強制規格の両方を運用しています。全体像はタイから仕入れる・委託製造の進め方と確認先をご覧ください。製造委託で押さえておく点は次の2つです。

  • 仏暦2511年(1968年)工業製品規格法の第20条により、強制規格に適合しなければならない製品を製造する人は、検査を受けて許可を取る必要があります
  • 第20条の2により、輸出のためであれば、大臣は許可を持つ製造者に対し、規格評議会が承認した外国または国際規格(タイの規格より高い場合も低い場合もある)で製造することを認めることができます

つまり、部品がTISIの強制規格の対象で、日本の顧客の規格で輸出用に作る場合は、工場に2つ質問します。「その規格のTISI許可を持っているか」「この注文に輸出向けの許可が必要か」。部品が強制規格の対象でなければ、どちらの質問も要りません。

(2026年10月17日時点でWIPO Lex掲載の工業製品規格法の条文を確認。同法は何度か改正されているため、最新の条文とTISIの強制規格リストを部品ごとに確認してください)

初回出荷と、最初の1年の管理

初回出荷の前に、検査・梱包・ラベルのルールを決め、量産の最初の期間は「承認済み」ではなく「重点管理期間」として扱います。

PPAPが承認するのは、ある時点の工程です。その後もタイの調達先を安定させるために、3つの習慣を持ちます。

  • 変更連絡のルール:材料、外注先、工場、型、工程を変える前に連絡してもらう。事後ではなく事前。品質の取り決めに書く
  • ロットの検査基準:出荷前に検査するか、どの抜き取り基準で見るかを決める。検品の進め方はベトナム調達の品質管理・検品代行ガイドが参考になります
  • 追跡できるラベル:箱ごとに品番・改訂・ロット・数量を書き、顧客先で問題が出たときに製造日までたどれるようにする

日本へ入れるときの協定税率の使い方はタイ・マレーシアから日本へ輸入|EPA・AJCEP・RCEPの選び方にまとめています。ドアバイザーやフロアマットなど、車種適合が中心になるカー用品は進め方が違うため、カー用品OEM・仕入れ|台湾・タイ・マレーシアをご覧ください。タイで食品や化粧品の製造委託も検討している場合は、タイで食品OEM|許可・名義・輸出書類の決め方もあわせてどうぞ。

よくある質問

1. タイの部品メーカーにはIATF 16949の認証が必要ですか?
A. 必ずではありません。自社の顧客が何を求めているかで決まります。求められる場合は、IATFの認証書の有効性確認の仕組みで、その工場と範囲を確認してください。

2. PPAPの提出レベルは誰が決めますか?
A. 部品を受け取る顧客です。AIAGのマニュアルがレベルを定めており、部品ごとに顧客がレベルと様式を指定します。自社が顧客なら注文書に書きます。

3. 見積もり依頼には何を付ければよいですか?
A. 普通公差の注記、材料記号と承認済みの代替材料、表面処理の仕様、重要特性の表示、改訂番号、梱包の指示を入れた図面一式と、年間数量・量産期間です。

4. 輸出用に作る部品にもTISIの許可は必要ですか?
A. 部品が強制規格の対象の場合だけ関係します。工業製品規格法には、許可を持つ製造者が輸出のために外国の規格で作ることを認める手続きもあります。最新の条文とリストをTISIで確認してください。

5. 専用の金型は誰のものになりますか?
A. 契約で決めたとおりになります。型を起こす前に、費用の負担、所有者、保管場所、移管の条件を書面で決めてください。

まとめ

タイでの自動車部品の製造委託は、価格交渉の前に「図面の6点・認証の確認・PPAPのレベルと様式・TISIの要否・変更連絡のルール」を固めると、試作と承認の手戻りを大きく減らせます。

規格や法令は改定されることがあります。契約の前に、IATF・TISIの最新の情報と、顧客の要求事項を確認してください。

💬 タイでの部品調達、図面の整理から承認書類・検品まで日本語でサポートします。 案件ごとに合う工場を探し、見極め、管理します。お問合せフォーム・LINEからご相談ください。


※出典:国際自動車タスクフォース(IATF)公式サイト「IATF 16949:2016」説明ページと認証書有効性確認の案内、AIAG「生産部品承認プロセス(PPAP)」マニュアル(各社の品質マニュアルでの引用による)、タイ工業製品規格法(仏暦2511年)第20条・第20条の2(WIPO Lex掲載)、タイ工業規格局(TISI)公式サイト。2026年10月17日確認。