タイの工場に、自社ブランドのソースや菓子、レトルト食品を作ってもらう。味や見た目の試作は順調に進んでも、つまずくのはその後です。日本の輸入者から求められた証明書をタイの工場が出せない、タイの製品許可が工場の名義になっていて別の工場に移せない——こうした問題は、実は最初の数週間で決まっています。
本記事では、タイで食品のOEM(製造委託)を始める日本の会社が、見積もりを取る前に決めておくべきことを、タイ食品医薬品局(タイFDA)と厚生労働省の公表資料をもとに順番に整理します。タイのサプライヤーの探し方、企業登記の確認、原産地証明の取り方はタイから仕入れる・委託製造の進め方と確認先にまとめているので、ここでは繰り返しません。
💬 タイでの食品OEMを検討中の方へ。 案件ごとに製品に合うタイの工場を探し、見極め、管理します。許可や証明書の段取りも含めてご相談ください。アジア各国からの調達をご覧いただくか、お問合せフォーム・LINEからどうぞ。
最初に決める:タイ国内でも売るか、輸出専用か
タイ国内でも販売するのか、日本など海外への輸出専用なのかで、タイの工場が取るべき許可が変わるため、見積もり依頼の前に決めておきます。
タイFDAの食品FAQでは、輸出専用の食品を製造する事業者は、製品ごとの許可(製品ライセンス)を申請せずに製造できるとしています。ただし例外があり、「特別管理食品」に当たるものは輸出専用でもタイFDAの許可が必要です。また、この免除は製品についての話で、工場そのものの許可(食品製造施設の許可)は輸出専用でも必要です。
輸出専用なら手続きは軽くなります。ただし裏返すと、タイの製品許可を持たない食品は、タイ国内で正式に「販売されている」状態にはありません。あとで日本や第三国の輸入者から「製造国で自由に販売されていることの証明」を求められると、出せない可能性があります(後述の証明書の章を参照)。
判断の目安は次のとおりです。
- 輸出専用:多くの区分でタイ側の手続きは簡単になる。処方・表示は輸出先の規則に合わせる
- タイでも売る(将来売るかもしれない):区分に応じた製品許可、タイの表示ルールに合ったラベル、許可を持つタイ側の名義人が必要になる
- まだ決めていない:工場を選ぶ段階では「タイでも売るかもしれない」前提で考えておく。発売後に変えると申請のやり直しになる
製品がどの区分に入るかを確認する
タイFDAは食品をリスクに応じて4つの区分に分けており、どの区分かによって製品許可と食品番号(シリアル番号)が必要かどうかが決まります。
| 区分(タイFDAの英語表記の訳) | タイFDAが挙げる例 | 製品許可・食品番号 |
|---|---|---|
| 特別管理食品(Specifically controlled food) | 乳児用調製乳、食品添加物、麻の実・麻由来の食品 | 必要(輸出専用でも必要) |
| 品質・規格が定められた食品 | 食品サプリメント、牛乳、茶、コーヒー、食塩 | タイで販売するなら必要 |
| 表示が定められた食品 | パン、ガム・キャンディ、香料 | タイで販売するなら必要 |
| 一般食品 | 砂糖・香辛料などの原料 | 多くは登録・食品番号が不要 |
(2026年10月17日時点でタイFDAの英語版公表ページを確認)
注意点が2つあります。1つ目は、一般食品のうち密封容器に入ったものは保健省告示第355号で別の扱いになることです。缶詰やレトルト食品を、原料が単純だからといって「一般食品」と決めつけないでください。2つ目は、区分は「その製品として売る形」で決まることです。工場がすでにコーヒー飲料の許可を持っていても、あなたの会社のコーヒー飲料の許可が取れているわけではありません。
健康食品(サプリメント)を作る場合は、日本で売るときの区分・表示・表現を日本の制度で確認する必要があります。タイの区分がそのまま日本で通用するわけではありません。サプリメントは食品であり、医薬品ではありません。病気の治療に代わるものではない点も、表示と販促の段階で守る必要があります。
製品許可を誰の名義で持つか
タイの製品許可を持てるのはタイで商業登記をして事業所を持つ個人・法人に限られるため、日本の会社は通常、工場かタイ側の協力会社の名義にすることになり、その扱いを契約に書いておきます。
タイFDAの申請案内では、申請者は商業登記証とタイ国内の事業所を持つ人・法人とされています。日本の本社がそのまま名義人になることはできません。現実の選択肢は2つです。
- 工場の名義で取る:工場はすでに施設許可とシステムのアカウントを持っているので早い。ただし、別の工場に生産を移すと許可はついてこず、移転先で取り直しになる
- ブランド側のタイの会社(または協力会社)の名義で取り、工場を製造者として記載する:準備に手間はかかるが、ブランド側がタイでの窓口を1つに保てる
どちらが正しいということはありません。問題になるのは決めないまま進めることです。名義人、変更手続きを誰がするか、契約終了時に許可をどう扱うかを、製造委託契約に書き込みます。
あわせて、工場がすでに持っているべきものも確認します。
| 確認するもの | 理由 |
|---|---|
| 食品製造施設の許可(工場規模なら Form Orr. 2 の食品製造許可、工場に当たらない小規模施設なら Form Sorbor. 1/1 の施設番号証明) | 食品を製造する施設には必要。輸出専用の免除はこれには及ばない |
| 保健省告示第420号(仏暦2563年=2020年)のGMP基準への適合 | タイFDAは販売用の食品を製造するすべての施設にこのGMP基準を適用している |
| 取引先(小売など)が求める民間認証 | タイの法令上の義務ではない。必要なら仕様書で合意する |
許可証の写しをもらい、記載された会社名と住所が、実際に訪問する工場と一致しているかを確認してください。複数の工場を持つ会社では、許可を持つ工場とは別の工場で作ろうとする場合があります。工場訪問で見るべき点はベトナム工場の監査・視察ガイド|チェックリストの内容が、タイの食品工場にもそのまま使えます(上の許可の確認を加えてください)。
タイFDAが出せる輸出用の証明書
タイFDAは食品の輸出用証明書を電子で発行していますが、どれが取れるかは製品のタイでの扱いによって変わるため、輸入者が求める書類と実在する証明書を製造前に突き合わせます。
タイFDAの電子証明書(e-Certificate)の仕組みは2025年5月1日から正式に運用されています。食品について公表されている様式は、自由販売証明書(Certificate of Free Sale)、成分証明書(Certificate of Ingredient)、製造者証明書(Certificate of Manufacturer)の3種類です。発行された証明書はタイFDAのオンライン確認システムで真正性を確かめられます。
| 輸入者から求められるもの | 通常対応する書類 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 製造国で自由に販売されていることの証明 | タイFDAの自由販売証明書 | タイの製品許可がない輸出専用品は対象外になる可能性がある。約束する前に工場とタイFDAに確認する |
| 許可を受けた施設で作られていることの証明 | タイFDAの製造者証明書 | 記載される施設が、実際にロットを作る施設であること |
| 原材料の内容 | タイFDAの成分証明書 | 初回発注後に処方を変えていないか |
| 動物性食品の衛生証明書 | 品目による。水産物は水産局が衛生証明書を発行 | タイFDAの証明書では代わりにならない |
| 協定税率を使うための原産地証明書 | タイ商務省 対外貿易局(DFT) | タイFDAの書類は協定上の原産地証明書ではない |
(2026年10月17日時点でタイFDAの電子証明書ページと告知を確認)
細かい点ですが、つまずきやすいのが英語の住所表記です。タイFDAの告知によると、電子証明書に記載する会社・工場の英語住所は、綴りと句読点を統一した書式に変わりました(タイ語の登記住所は変わりません)。インボイスや日本側の届出書類で工場の古い英語表記を使っていると、照合で問い合わせを受けることがあります。工場には、タイFDAの書類に載っている英語住所をそのまま教えてもらい、すべての書類で同じ表記を使ってください。
原産地証明書の発給機関と、日本へ入れるときにどの協定を使うかはタイ・マレーシアから日本へ輸入|EPA・AJCEP・RCEPの選び方をご覧ください。
💬 製品の区分や許可の名義、必要な証明書の洗い出しからお手伝いします。 タイFDAの最新の規則と照らし合わせ、製造委託契約に入れるべき項目まで整理します。お問合せフォームからレシピの概要をお送りください。
日本へ輸入するときに押さえる要点
日本に輸入して販売・営業に使う食品は、輸入者が食品衛生法第27条に基づいて検疫所へ輸入届出を出す必要があり、加工食品では原材料と製造工程の説明書を求められることがあるため、タイの工場に英語で用意してもらう約束を先にしておきます。
厚生労働省の案内では、販売または営業上使用する食品等を輸入する人には、食品衛生法第27条に基づく届出義務があり、届出のない食品等は販売・営業上使用できないとされています。届出先は貨物を通関する場所を担当する検疫所で、届出は貨物の到着予定日の7日前から受け付けられています。必要に応じて添付する書類として、加工食品などの原材料及び製造工程の説明書、食肉製品などの衛生証明書、個別の規格基準がある食品の試験成績書が挙げられています。
ここで大事なのは、日本側の書類の多くがタイの工場の情報からできていることです。
- 原材料・製造工程の説明書:配合と工程を知っているのは工場。英語で、日本側が使える粒度で出してもらう約束を契約に入れる
- 添加物:タイで使える添加物が日本でも使えるとは限らない。初めて輸入する品目は、検疫所の窓口に事前相談できる(厚生労働省も、初めて輸入する場合は検疫所へ相談するよう案内している)
- 容器包装:日本では器具・容器包装も届出の対象。工場が使う包材メーカーと材質を確認しておく
- 日本語表示:日本で売る食品には日本の表示ルールに沿った日本語の表示が必要。タイで印刷するか、日本で貼るかを決める
(2026年10月17日時点で厚生労働省「輸入食品の届出手続」等を確認)
日本側の制度全体(食品衛生法・表示)の整理は、ベトナムの例ですがベトナムで食品OEM|委託製造とパートナー選びにまとめています。誰が輸入者になるか(自社か、輸入代行か)は、最初の出荷の前に書面で決めておいてください。
仕様書に入れておくこと
食品OEMの仕様書は、見積もりを出すタイの工場と、届出をする日本の輸入者の両方が読むものとして、1つの文書で両方の必要を満たすように書きます。
遅れの多くは、片方が必要としていた情報がもう片方に渡っていないことから起きます。最低限、次の項目を仕様書に入れておきます。
- 配合と添加物(輸出先で使えるかを確認済みのもの)
- 原材料と製造工程の説明(英語、日本側の届出に使える形で)
- ラベルのデザインと承認者(輸出用とタイ販売用でファイルを分ける)
- 容器包装の材質と包材メーカー
- 賞味期限の設定根拠(何をもとにその期限にしたのか)
- ロット番号の付け方と保存サンプルの保管期間
見積もりから初回出荷までの順番
販売ルート、区分、工場の許可、名義、証明書、仕様書の順に決め、そのあとで価格を比べます。
| 手順 | 決めること・確認すること | 成果物 |
|---|---|---|
| 1. 販売ルート | 輸出専用か、タイでも売るか | すべての見積もり依頼に書く一文 |
| 2. 区分 | タイFDAの4区分のどれか | 製品許可の要否 |
| 3. 工場の許可 | 実際に作る施設の許可とGMP | 訪問先と一致した許可証の写し |
| 4. 名義 | 工場かタイ側の会社か、移管時の扱い | 製造委託契約の条項 |
| 5. 証明書 | タイFDA・水産局・DFTのどれが必要か | 輸入者と合意したリスト |
| 6. 日本側の届出 | 輸入者、事前相談、説明書の用意 | 輸入者と工場の役割分担表 |
| 7. 価格比較 | 同じ条件にそろえた見積もり | 比較表 |
化粧品も同じブランドで作る予定なら、タイで化粧品OEM|届出ルートと表示・証明書もあわせてご覧ください。
よくある質問
1. タイの工場は、タイの製品許可なしで輸出用の食品を作れますか?
A. 多くの区分では可能です。タイFDAの食品FAQでは、輸出専用の食品は製品許可なしで製造できるとしています。ただし特別管理食品は例外で、工場の施設許可はどの場合も必要です。
2. 日本の本社がタイの製品許可の名義人になれますか?
A. なれません。タイFDAの案内では、申請者はタイで商業登記をし、タイ国内に事業所を持つ人・法人とされています。工場かタイ側の会社の名義にし、その扱いを契約で決めます。
3. 自由販売証明書(Certificate of Free Sale)は必ず出してもらえますか?
A. 製品のタイでの扱いによります。タイの製品許可を持たない輸出専用品は対象にならない可能性があるため、輸入者に約束する前に工場とタイFDAに確認してください。
4. タイFDAの製造者証明書は、関税を下げるための原産地証明書として使えますか?
A. 使えません。協定税率に使う原産地証明書はタイ商務省の対外貿易局(DFT)が発給するもので、タイFDAの証明書とは別のものです。
5. 日本への輸入届出は誰が出しますか?
A. 日本の輸入者です。食品衛生法第27条により、販売・営業上使用する食品を輸入する人が検疫所に届け出ます。加工食品では原材料・製造工程の説明書が必要になることがあるため、タイの工場から英語で受け取れるようにしておきます。
まとめ
タイで食品OEMを始めるときは、価格の前に「販売ルート・区分・許可の名義・証明書・日本側の届出」を決めておくと、出荷直前の手戻りを防げます。
特に、輸出専用にするかどうかは、取れる証明書にまで影響します。制度は改定されることがあるため、契約前にタイFDAと厚生労働省の最新情報を確認してください。
💬 タイでの食品OEM、工場探しから書類の段取りまで日本語でご相談いただけます。 案件ごとに合う工場を探し、見極め、管理します。LINEまたはお問合せフォームからお気軽にどうぞ。
※出典:タイ食品医薬品局(Thai FDA)英語版公式サイト「What is Food and How to Categorize Food?」「How to Apply for Permission on Food?」「Food FAQs」、電子証明書(e-Certificate)の様式ページと告知、タイ水産局の水産動物衛生証明書に関する案内、厚生労働省「輸入食品の届出手続」。2026年10月17日確認。