タイの工場なら、美容液や日焼け止めを自社ブランドで作ること自体は難しくありません。時間がかかるのは、最初のやり取りで誰も聞かない質問のほうです。「この製品はタイでも売るのか、輸出だけか」。タイの化粧品法はこの2つを別の扱いにしていて、その答えで、誰がタイの当局に届け出るか、ラベルに何を書くか、輸入者にどの証明書を渡せるかが決まります。
本記事では、タイで化粧品のOEM(製造委託)を始める日本の会社向けに、タイ側の届出ルートの選び方と、日本へ輸入するときの要点を、タイ食品医薬品局(タイFDA)が公表するタイ化粧品法の英訳と厚生労働省・自治体の資料をもとに整理します。タイの会社の探し方や原産地証明はタイから仕入れる・委託製造の進め方と確認先をご覧ください。
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タイ化粧品法の2つのルート
タイで作る化粧品は、タイFDAに届け出て製造・販売するルートと、海外の買い手の要求に合わせて輸出専用で作るルートのどちらかになり、輸出専用ルートの製品はタイ国内で販売できません。
根拠は仏暦2558年(2015年)化粧品法です。第14条は、化粧品を製造する人、販売のために輸入する人、製造・販売を委託する人は届出をしなければならず、届出受理書が出てから製造・輸入を始められると定めています。法律上の「製造」には、混合・調製のほか、小分け充填や詰め替えも含まれます。中身を容器に詰めるだけの工場も「製造」に当たります。
第35条は輸出向けの規定です。輸出する化粧品は、品質・規格・表示などを海外の買い手の要求に合わせて製造できます。ただし製造者や輸出者は当局に詳細を届け出て、事務局長が定める規則に従う必要があり、このルートで作った製品はタイ国内で販売できません。
| ルートA:タイでも売る(届出) | ルートB:輸出専用(買い手の要求に合わせる) | |
|---|---|---|
| 根拠 | 第14条(製造前の届出) | 第35条(輸出向けの規定) |
| 処方・表示の基準 | タイの規則 | 輸出先の規則 |
| タイでの販売 | 受理書が出れば可能 | 不可 |
| タイ語ラベル | 販売前に必要(第22条) | 輸出先が求めない限り不要 |
| 当局への情報提供 | 届出として行う | 法律上、詳細の提供が必要 |
(2026年10月17日時点で、タイFDAのデータカタログに掲載された化粧品法の英訳と、タイFDAの化粧品ページを確認。法律は2015年以降に改正されており英訳が追いついていない可能性があるため、条番号は契約に使う前に最新のタイ語条文で確認してください)
選ぶ基準は商売の計画です。タイで売る可能性が少しでもあるなら、あるいは他の国での登録に「製造国で販売されている実績」が必要になりそうなら、最初からルートAで考えておきます。
届出は誰の名義で出すか
タイ化粧品法では製造を委託する側も届出人になれますが、タイFDAの電子申請はタイの事業者を前提にしているため、日本の会社は工場かタイ側の会社を通じて届け出るのが現実的です。
法律の「届出人」の定義には、販売目的の製造・輸入に加えて「製造の委託」が含まれています。つまり、工場に作らせるブランド側も、理屈の上では届出人になれます。一方、タイFDAの申請案内では、届出人として製造者・受託製造者・輸入者が挙げられ、電子申請のアカウント開設には事業者または代表者のタイの国民ID番号が必要とされています。
日本の会社にとっての選択肢は、食品と同じく2つです。
- 工場が届け出る:早い。ただし受理書は工場の名義になり、工場を変えると新しい工場で届出をやり直す
- ブランド側のタイの会社が届け出て、工場を製造者として記載する:準備に手間はかかるが、記録をブランド側で管理できる
受理書の有効期間は発行日から3年で(第15条)、タイFDAのページでは期限の6か月前から更新できるとしています。誰が名義人になり、誰が更新し、契約終了時にどうするかを製造委託契約に書いておきます。
工場の書類は「その工場」のものを確認する
化粧品を製造・受託製造・輸入・保管する施設には、2018年の保健省告示に基づくタイFDAの施設検査報告書が必要なので、実際に製品を作る工場のものを見せてもらいます。
タイFDAは、仏暦2561年(2018年)保健省告示「化粧品の製造・輸入に関する規則・手順・条件」と、製造・輸入・保管施設の検査報告書の発行手続きを案内しています。新設や移転の場合もこの手続きの対象です。
| 確認する書類 | わかること |
|---|---|
| その工場のタイFDA施設検査報告書 | 2018年の告示に基づいて化粧品製造施設として確認を受けているか |
| 似た製品で工場が持っている届出受理書 | タイFDAへの届出に慣れているか、どの種類の製品か |
| 原料メーカーからの成分資料 | 輸出先向けの全成分表示を裏付けられるか |
| 取引先が求める民間認証 | タイの法令上の義務ではない。必要なら書面で合意する |
複数の工場を持つ会社では、検査報告書を持つ工場とは別の工場で充填しようとすることがあります。書類の住所と、訪問する工場の住所を必ず突き合わせてください。
処方・表現・サンプルの扱い
処方の権利を誰が持つかを決め、表現は輸出先で認められる範囲にとどめ、開発段階のサンプルは法律のサンプル免除を使います。
- 処方の権利:工場が持っている既存処方を使う方法と、新しく開発してもらう方法があります。既存処方の場合、ブランドとデザインは自社のものでも、処方は工場のもので、他の工場に持っていけないことがあります。契約で決めておきます
- 全成分:輸出先の表示名で全成分のリストを出してもらいます。タイの基準に合っていても、日本の基準に合っているとは限りません
- 表現:タイFDAは、ラベルの表現は事実に基づき、化粧品の範囲内で、根拠があるものでなければならないとしています。日本で売るなら、化粧品と医薬部外品・医薬品の境目は日本の制度で判断します。工場の営業資料の効能表現をそのまま使わないでください
- サンプル:第16条は、展示・販促用、または研究・試験・分析用のサンプルを届出の対象から外しています(大臣の定める条件に従う)。処方が固まる前の試作品や試験用サンプルはこの扱いになります。海外に送る前に、条件を工場と確認してください
💬 ルートA・Bのどちらにするか、工場の書類が実際の工場と合っているか。 処方を固める前に確認しておくと、後からのやり直しを防げます。お問合せフォームから製品の概要と販売予定国をお送りください。
タイのラベルに書くこと、輸出用ラベルの考え方
タイで売る化粧品にはタイ語のラベルが必要で、タイ製の場合は製造者の名称と所在地を書くことになっているため、ルートAではOEMの工場名がラベルに出ます。
第22条は、ラベルに書く内容として、化粧品の名称と商品名、タイ製なら製造者の名称と所在地、内容量、使用方法、注意・警告、製造年月と使用期限、ロット番号、全成分の名称などを挙げています。情報はタイ語で読みやすい大きさで書き、外国語を併記することもできます。
ここから2つのことが言えます。
- ルートAでは、工場の名称と所在地がタイのラベルに載る:製造元を出したくない事情があるなら、ルートAを選ぶ前に検討が必要です
- ルートBでは、輸出先のルールで決まる:日本向けなら、日本の表示ルールに沿ったデザインにし、日本側で確認します
日本へ輸入するときの要点
海外で作った化粧品を日本で売るには、日本の化粧品製造販売業者が、品目ごとの製造販売届と、海外の製造業者についての届出を出す必要があります。
福岡県の案内によると、化粧品の製造販売業者は製造販売を始める前に品目ごとに製造販売届を、主たる事務所のある都道府県の知事に出します。外国で作った製品の場合は、これに加えて「化粧品外国製造販売業者(外国製造業者)届出書」を医薬品医療機器総合機構(PMDA)に出し、PMDAを経由して厚生労働大臣に届け出ます。製造販売届の製造所の欄には、届け出た外国の製造業者をすべて書きます。
| 日本側で必要なもの | 誰が | 要点 |
|---|---|---|
| 化粧品製造販売業許可 | 日本で販売責任を負う会社 | 自社で持つか、許可を持つ会社に任せるか |
| 外国製造業者の届出 | 日本の製造販売業者(PMDA経由で厚生労働大臣へ) | タイの工場の名称・所在地を書く。工場を変えると届出も変わる |
| 品目ごとの製造販売届 | 日本の製造販売業者(都道府県知事へ) | 販売名を外国製造業者の届出と一致させる |
| 処方の確認 | 日本の製造販売業者 | 化粧品基準(平成12年厚生省告示第331号)の配合禁止・制限成分に当たらないか |
| 日本語表示 | 日本の製造販売業者 | タイで印刷するか、日本の包装等の製造業許可を持つ施設で貼るか |
(2026年10月17日時点で、福岡県「化粧品製造販売届」の案内、厚生労働省の化粧品基準の公表資料を確認)
ここでも大事なのは、タイの工場の情報が日本側の届出にそのまま使われることです。工場の英語名と住所(タイFDAの書類と同じ表記)、全成分、製造工程の概要を、日本側に渡せる形で出してもらう約束を契約に入れてください。なお、日本で医薬部外品として売る製品は、化粧品とは別に品目ごとの承認が必要になります。どちらの区分で売るかは、処方を決める前に決めておきます。
タイFDAが出せる証明書
タイFDAは化粧品について、自由販売証明書・製造者証明書・製品原産地証明書の3種類の電子証明書を出しており、このうち自由販売証明書は、タイで販売できる製品かどうかに左右される可能性が高い書類です。
| 輸入者から求められるもの | 通常対応する書類 | 約束する前に確認すること |
|---|---|---|
| 製造国で自由に販売されていることの証明 | タイFDAの自由販売証明書 | ルートBの製品はタイで販売できないため、対象外になる可能性がある |
| 特定の施設で作られていることの証明 | タイFDAの製造者証明書 | 記載される施設が実際の製造施設か |
| どこで作られたかの証明 | タイFDAの製品原産地証明書(Certificate of Product Origin) | 協定税率に使う原産地証明書ではない |
| 協定税率を使うための原産地証明書 | タイ商務省 対外貿易局(DFT) | 協定ごとに様式が違う |
(2026年10月17日時点でタイFDAの電子証明書ページを確認)
タイFDAの電子証明書は2025年5月1日から正式に運用され、オンラインで真正性を確認できます。英語の住所表記は統一書式に変わっているので、インボイスや日本側の届出も同じ表記にそろえます。協定税率の使い方はタイ・マレーシアから日本へ輸入|EPA・AJCEP・RCEPの選び方をご覧ください。
ベトナムで化粧品OEMを行う場合との比較にはベトナムで化粧品OEM|製造委託・処方開発・公示、食品も同じブランドで作るならタイで食品OEM|許可・名義・輸出書類の決め方が参考になります。
よくある質問
1. タイで輸出専用に作る化粧品も、タイFDAへの届出が必要ですか?
A. 化粧品法第35条により、輸出用の化粧品は海外の買い手の要求に合わせて作れますが、製造者や輸出者は当局に詳細を提供し、事務局長の定める規則に従う必要があります。このルートの製品はタイで販売できません。
2. 日本の本社がタイの届出人になれますか?
A. 法律上は製造を委託する側も届出人になれますが、タイFDAの電子申請はタイの事業者を前提にしています。実際には工場か、ブランド側のタイの会社を通じて届け出ます。
3. タイで売る場合、OEM工場の名前はラベルに出ますか?
A. 出ます。第22条で、タイ製の化粧品のラベルには製造者の名称と所在地を書くことになっています。輸出専用ルートの製品は輸出先の表示ルールに従います。
4. タイの届出受理書の有効期間はどれくらいですか?
A. 第15条で発行日から3年です。タイFDAのページでは、期限の6か月前から更新できるとしています。
5. タイの工場で作った化粧品を日本で売るには何が必要ですか?
A. 日本の化粧品製造販売業者が、PMDA経由で外国製造業者の届出を、都道府県知事に品目ごとの製造販売届を出します。処方は化粧品基準に合っている必要があり、日本語の表示も必要です。
まとめ
タイでの化粧品OEMは、「タイでも売るか、輸出専用か」を最初に決めると、届出の名義、ラベル、取れる証明書、日本側の届出に必要な情報が順に決まっていきます。
制度は改定されることがあります。契約や処方を固める前に、タイFDAと日本の最新の案内で確認してください。
💬 タイでの化粧品OEM、工場探しから日本向けの書類の段取りまで日本語で対応します。 案件ごとに合う工場を探し、見極め、管理します。お問合せフォーム・LINEからお気軽にご相談ください。
※出典:タイ化粧品法(仏暦2558年=2015年)英訳(タイFDAデータカタログ掲載)第4条・第14条・第15条・第16条・第22条・第35条、タイ食品医薬品局(Thai FDA)英語版サイト「How to Apply for Permission on Cosmetics?」と電子証明書(e-Certificate)のページ・告知、福岡県「化粧品製造販売届」の案内、厚生労働省「化粧品基準」公表資料。2026年10月17日確認。