バルブは配管の中でも単価が高く、指定すべき項目が多いため注文書の書き漏れが起きやすい部材です。「ボールバルブ 50A ステンレス 10K」と書いただけでは、どの製品規格で設計されたものか、1台ずつ圧力試験をしたものか、材料証明書がそのロットの試験結果なのかが分かりません。外観が同じでも、違いは規格・材料・試験記録に表れます。
本記事は、日本の設計・購買部門や、ベトナムをはじめアジアにある日系工場の保全・購買担当の方に向けて、バルブを海外から調達するときに指定すべき規格と試験、ミルシート(材料証明書)の種類と確かめ方、日本の法令で確認すべき点を整理します。規格の名称・版・範囲は、API(米国石油協会)の公式カタログ、ASMEの公式ページ、各国の規格機関のページで確認したものだけを載せています(2026年10月27日確認)。試験圧力・保持時間・許容漏れ量などの数値は規格本文にしかないため扱いません。
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バルブの種類ごとの製品規格
バルブは種類ごとに製品規格があり、設計・材料・面間寸法・試験の要求が決まっています。注文書に製品規格を書けば、仕入先が自由に選ぶ余地がなくなります。
| 種類 | よく指定される製品規格 | 公式情報での版 | 範囲の要約 |
|---|---|---|---|
| ゲートバルブ | API Std 600(Steel Gate Valves — Flanged and Butt-Welding Ends, Bolted Bonnets) | 第14版・2021年5月(2024年4月のErrata 1を含む) | 石油精製などで使うボルト締めボンネットの重構造鋼製ゲートバルブ |
| ボールバルブ | API Std 608(Metal Ball Valves — Flanged, Threaded, and Welding Ends) | 第6版・2020年1月 | フランジ・突合せ溶接端はNPS 1/2〜20、ねじ込み・差込み溶接端はNPS 1/4〜2の金属ボールバルブ |
| ボールバルブ | ISO 17292(Metal ball valves for petroleum, petrochemical and allied industries) | 2015年版(スウェーデン規格協会SISで有効) | 石油・石油化学・天然ガスプラントなど向けの金属ボールバルブ |
| バタフライバルブ | API Std 609(Butterfly Valves: Double-Flanged, Lug- and Wafer-Type, and Butt-Welding Ends) | 第9版・2021年4月 | 設計・材料・面間寸法・圧力温度定格・検査と試験 |
| チェックバルブ | API Std 594(Check Valves: Flanged, Lug, Wafer, and Butt-Welding) | 第9版・2022年2月 | 2種類のチェックバルブの設計・材料・面間寸法・定格・検査と試験 |
| 鋼製バルブ全般 | ASME B16.34(Valves — Flanged, Threaded, and Welding End) | 2025年版 | 鋳造・鍛造・製缶バルブの圧力温度定格・寸法・材料・非破壊検査・試験・表示 |
API規格は石油精製・石油化学の分野で生まれた規格です。工場の水・圧縮空気・低圧蒸気の配管ではAPI規格品が不要な場面もあり、メーカー規格や製造国の国家規格の製品が使われることがあります。どの規格にするかは設計者が決め、購買はその決定を注文書に正しく書き写す、という役割分担がトラブルを防ぎます。
試験の指定は「API 598」と書くだけでは足りない
API 598とISO 5208はバルブの検査・圧力試験の規格です。どちらも製品規格と組み合わせて使い、製品規格と食い違う場合は製品規格の要求が優先されます。
- API Std 598(Valve Inspection and Testing):API 2025年版カタログによると第11版・2023年2月。ソフトシート、非金属シート(セラミックなど)、メタルシートのゲート・グローブ・プラグ・ボール・チェック・バタフライの各バルブについて、検査、追加検査、圧力試験の要求を定めます。API規格から引用されることを前提とした補足の規格ですが、購入者と製造者の合意があれば他の種類のバルブにも適用できます。購入者が指定すべき情報は附属書Aにまとめられています。
- ISO 5208(Industrial valves — Pressure testing of metallic valves):2015年版(SISで有効)。金属製工業用バルブの耐圧部の健全性と閉止時の密封性を確かめるために、製造者が行う検査・試験を定めます。製品規格に引用された範囲で適用し、製品規格と異なる場合は製品規格に従います。圧力試験の安全面は対象外です。
実務上のポイントは、API 598に購入者が指定すべき事項があることです。指定しなければ製造者の標準で行われます。見積の段階で、試験の種類・試験流体・記録の形式(1台ごとかロットごとか)を明記するよう求めてください。
注文書に書く項目
バルブ1行の仕様には、種類・製品規格・サイズ・圧力区分・端部の接続・本体材料・トリム材料・操作方式・試験規格・必要書類をそろえます。
| 項目 | 書く内容 | よくある失敗 |
|---|---|---|
| 種類 | ボール(フローティング/トラニオン)、バタフライ(ウェハー/ラグ)など | 「バルブ」とだけ書く |
| 製品規格 | API 600、API 608、ISO 17292、ASME B16.34、メーカー規格など | 空欄にする |
| サイズ | NPSまたはDN(A呼称) | 系統を書かずに数字だけ |
| 圧力区分 | Class(ASME)、K(JIS)、PN(EN) | 「PN 150」のように系統を混ぜる |
| 端部 | フランジ(規格・区分・座の形状)、突合せ溶接、差込み溶接、ねじ込み | 配管側のフランジと合わない |
| 本体材料 | 鋼種+材料規格 | 「ステンレス」とだけ書く |
| トリム | ボール・ディスク・シート・ステム・パッキンの材料 | ソフトシート品が届く |
| 操作 | レバー、ハンドル、ギヤ、空気・電動アクチュエータ | 取付フランジの有無を確認していない |
| 試験 | 試験規格と購入者指定事項 | 「テスト済み」で済ませる |
| 書類 | ミルシートの種類、試験成績書、図面 | 到着後に求める |
フランジの取り合い(10K・Class 150・PN 16を混ぜてはいけない理由)は、配管部材(継手・フランジ)の海外調達ガイドで詳しく説明しています。
ミルシート(EN 10204)の4種類
EN 10204は、金属製品の受け渡しで購入者に提出する検査文書の種類を定める欧州規格です。2.1と2.2は「非特定検査」にもとづく文書、3.1と3.2は納入品そのものに対する「特定検査」にもとづく文書です。
イタリア規格協会(UNI)が公開しているUNI EN 10204:2005(EN 10204:2004をそのまま採用)のプレビューと、BSIのページで次の点を確認しました。
- 現行版はEN 10204:2004です。BSIはBS EN 10204:2004を「Current」と表示しており、1991年版に代わるものとしています
- 適用範囲は、製造方法を問わずすべての金属製品(板・棒・鍛造品・鋳造品など)で、非金属製品にも適用できます。製品の受け渡し条件を定める製品規格と組み合わせて使います
- 2004年版で旧2.3が廃止され、3.1が旧3.1.Bに、3.2が旧3.1.A・3.1.C・3.2に置き換わりました
| 種類 | 規格上の名称 | 試験結果 | 結果の根拠 | 確認者 |
|---|---|---|---|---|
| 2.1 | Declaration of compliance with the order | なし | ― | 製造者 |
| 2.2 | Test report | あり | 非特定検査(納入品とは限らない) | 製造者 |
| 3.1 | Inspection certificate 3.1 | あり | 特定検査(納入品またはそれを含む試験単位) | 製造部門から独立した、製造者の権限ある検査担当者 |
| 3.2 | Inspection certificate 3.2 | あり | 特定検査 | 上記に加え、購入者の検査担当者または公的規則で指定された検査員 |
2.1と2.2の定義はUNIのプレビューの原文で確認しました。3.1と3.2の確認者の区分は、プレビューの範囲外だったため、規格の要約表を引用している技術資料で確認しています。3.2が必要な場合は、立会い検査が入るため、製造や試験の前に検査機関・費用負担・立会いの範囲を決めておく必要があります。
💬 ロットごとの3.1証明書付きで調達したい、3.2のための第三者立会いを手配したい、というご相談も承ります。 配管部材・バルブ・継手の調達をご覧ください。
ミルシートと現品を照合する
ミルシートが役に立つのは、手元の現品までたどれるときだけです。両者をつなぐのは、証明書に書かれ、本体に刻印されたヒート番号(溶解番号)やロット番号です。
- 証明書の種類が注文どおりか(2.2で頼んだのか3.1で頼んだのか)
- 製造者名・工場が、本体の表示や見積書と一致するか。ASME B16.34の範囲には表示(マーキング)の要求が含まれます。本体の表示や銘板の内容を証明書と照らし合わせます
- ヒート番号・ロット番号が、本体の刻印・銘板と一致するか
- 材料と材料規格が、図面・注文書と一致するか
- 化学成分・機械的性質が、材料規格の範囲に入っているか
- 数量・サイズが、梱包明細の範囲を証明書がカバーしているか
EN 10204では「中間業者(intermediary)」を、製造者から製品を受け取り、そのまま、または注文や製品規格で定めた特性を変えない加工だけをして供給する組織と定義しています。規格には中間業者による検査文書の伝達についての章もあります。商社経由で届いたミルシートは、製造者が発行した証明書まで遡れることが前提で、中間業者が2.2を3.1に格上げすることはできません。
偽造を疑うべき兆候と確かめ方
疑わしい点があっても、すぐに偽物と決めつけず、発行元の工場への照会と第三者機関での再試験で確かめます。
疑うきっかけになる兆候は次のとおりです。
- 証明書のヒート番号が本体のどこにもない。本体に刻印そのものがない
- 1枚の証明書が、溶解番号の区別なく多くのサイズ・鋼種をまとめている
- 別々のヒートの証明書で、試験値が小数点以下まで同じ
- 証明書の工場名と、本体表示・見積書の製造者名が違う
- 不鮮明なスキャンしかなく、工場の連絡先がない。「新しく製造した」と言われたのに、発行日が発注日より前
確かめ方としては、まず証明書番号とヒート番号を、工場の公式サイトに載っている窓口から品質保証部門に照会し、そのロットに発行したかを確認します。次に、認定を受けた試験所で成分分析・機械試験をやり直します。さらに、仕入先の倉庫で出荷前に刻印と証明書を照合し、残金の支払いはそのあとにします(サプライヤー確認・検品)。
メーカーと型番を指定して調達する場合は、流通経路も確認します。仕入先にどこから仕入れたか(メーカー、一次代理店、流通市場など)を尋ね、メーカーが公式サイトで代理店を公表していれば照らし合わせます。日本の設備メーカーが据え付けたラインでは、KITZなど日本のバルブメーカーの製品が型番で指定されることがあります。Sunsho Tradeはどのメーカーの正規代理店でもありません。仕入れ経路とメーカー名は見積書に明記しますので、それを見てご判断ください。
日本で確認すべき法令の範囲
日本では、高圧ガスの容器に付けるバルブは、高圧ガス保安法の「附属品検査」の対象になり得ます。プラントや設備に組み込むバルブは、組み込む先の設備が法令の対象かどうかで扱いが変わります。
e-Gov法令検索の条文で確認した内容です(2026年10月27日確認)。
- 高圧ガス保安法 第49条の2(附属品検査):バルブその他の容器の附属品で経済産業省令で定めるものを製造・輸入した者は、附属品検査に合格して刻印されたものでなければ、譲渡・引渡しできません。登録附属品製造業者・外国登録附属品製造業者の製品で所定の刻印があるものなどは例外です。ガスボンベ用のバルブを海外から輸入する場合は、まずここを確認してください。
- 高圧ガス保安法 第56条の3(特定設備検査):高圧ガスの製造設備のうち省令で定める「特定設備」には、製造工程ごとの検査や、輸入時の検査が課されます。プラント配管のバルブが特定設備や完成検査の手続きにどう関わるかは、設備の設計者、または高圧ガス保安協会・都道府県の窓口で確認してください。
- 労働安全衛生法 第37条・第38条:別表第一のボイラー・第一種圧力容器などの特定機械等には、製造許可と、製造・輸入時の検査が課されます。バルブ単体は別表第一に挙がっていません。これらの機器に組み込む場合に必要な書類は、機器メーカー・検査機関に確認してください。
ベトナムへ輸入する場合については、内務省の通達16/2026/TT-BNV(2026年7月28日署名)のリストに工業用バルブ単体の行が見当たりませんでした(高リスクのエレベーター部品として、油圧エレベーター用遮断弁・逆止弁はあります)。商工省の通達33/2026/TT-BCT(2026年7月1日施行)のリストはスキャン画像を全ページ目で確認し、バルブ(HS 8481)の行は見当たりませんでした。科学技術省の通達36/2026/TT-BKHCNは、報道によると中リスクに「ステンレス鋼」を含みますが、原本を入手できず対象のHSコードは確認できていません。HSコードごとに通関業者・管轄機関で確認してください。
よくある質問
Q1. 「API 598で試験済み」なら、API規格のバルブということですか?
そうとは限りません。API 598は検査・試験の規格で、設計の製品規格ではありません。API 598で試験していても、設計は別の規格ということがあります。製品規格(API 600、API 608、ISO 17292など)は別に確認してください。
Q2. 試験圧力はいくつで指定すればよいですか?
試験圧力・保持時間は、試験規格と製品規格の本文で、圧力区分と材料ごとに決まっています。本記事では数値を載せません。実際に試験した圧力・流体・時間が1台ごとに記載された成績書を求めてください。
Q3. ミルシートの3.1は第三者が証明したものですか?
いいえ。3.1は、製造部門から独立した製造者の検査担当者が確認する証明書です。購入者側や公的な検査員の確認が必要な場合は3.2を指定します。
Q4. 「3.1.B」と書かれた証明書は使えますか?
3.1.Bは1991年版の呼び方で、2004年版では3.1が旧3.1.Bに置き換わっています。旧表記の証明書を受け入れるかは、購入者と案件の仕様書で決めます。発注前に呼び方を合わせておくと安心です。
Q5. 日本のメーカーのバルブを、アジアの流通から型番指定で調達できますか?
型番を指定しての調達は可能です。Sunsho Tradeは正規代理店ではないため、仕入れ経路とメーカー名を見積書に明記します。同等品との比較を希望される場合は、図面と材料表をそろえてご提案します。
💬 バルブの仕様書づくり、試験成績書とミルシートの照合、ベトナム・日本への納品まで日本語でご相談いただけます。 配管部材・バルブ・継手の調達をご覧のうえ、お問合せフォーム・LINEからどうぞ。