溶接治具、検査具、小さな組立機は、カタログから買うものではありません。自社の部品と自社のラインに合わせて設計され、作り手は仕様書に書かれたことしか知りません。ベトナムでは、こうした設備を機械加工会社や自動化設備メーカーが設計・製作しており、部品加工と並行して手がけている会社もあります。
うまくいかない案件は、機械加工の腕で失敗するのではありません。機械の形は書いたが、その機械が受け止めるべき部品のばらつきを書いていなかった仕様書。日本の保全担当者が見たこともない部品で組まれた制御盤。梱包が終わるまで誰も決めていなかった受入検査。失敗の多くは、この3つのどれかから起きます。日本へ持ち込む設備なら、日本の電源と日本の安全の考え方に合っているかという論点が、さらに加わります。
この記事が扱う範囲 — 治具・検査具・専用機・自動化セルをベトナムで製作してもらうときの、仕様書、設計審査、電気・空圧部品、受入検査、引渡し後の支援を扱います。治具に載せる部品そのものの発注は工法ごとの記事にあり、削り出しは切削加工、板材は板金・プレス、樹脂は射出成形です。ハーネスの導通検査台や基板の検査治具は、それぞれワイヤーハーネスと基板実装の記事でも扱っています。
💬 治具や専用機をベトナムで作りたいが、仕様書を見積に出せる形にしたい、という段階からご相談いただけます。 Sunsho Tradeはホーチミン拠点の日系商社として、仕様の整理から製作会社の探索・選定、立会検査、調達・輸出支援までを現地で代行します。お問合せフォームまたはLINEからどうぞ。
手順1|何を作るのかを、4つに区分する
治具、検査具、専用機、自動化セルは、仕様書の中心も受入検査の方法も違います。書き始める前に、どれを買うのかを決めます。
| 区分 | 役割 | 仕様書の中心 | 受入の証明方法 |
|---|---|---|---|
| 治具・保持具 | 加工・溶接・組立のために部品を位置決めし固定する | 部品図と一致する基準(データム)、クランプ位置、投入方向、摩耗部品 | その治具で作った部品が図面どおりに測れ、載せ直しても同じ位置に来る |
| 検査具 | 部品を図面と照合する(通り・止まり、またはダイヤルゲージ等) | 検査する形体、基準、部品公差に対する検査具の公差 | 校正報告と、実部品を使った繰り返し性の評価 |
| 専用機 | 圧入、ねじ締め、塗布、刻印など1つの工程を行う | 工程条件、部品のばらつき、必要な出来高、安全 | 製作会社での実部品による試運転、その後に自社工場で再確認 |
| 自動化セル・ライン | 搬送を伴って複数の工程をつなぐ(ロボットや画像検査を含むことが多い) | 工程間の取り合い、各工程のサイクル、異常時の処理、データ出力、安全 | 工場立会検査(FAT)、現地検査(SAT)、量産での稼働確認 |
同じ製作会社が4つとも手がけることはありますが、渡す図面と問うべきことは違います。検査具は測定器なので測定能力で評価し、機械は出来高と安全で評価します。
手順2|仕様書は、機械ではなく部品と使う工場から書く
良い仕様書は、実際の部品で、実際の工場で、自社の安全ルールのもとで何を達成すべきかを伝え、仕組みは理由がない限り製作会社に任せます。
2社の見積が同じ設備を指しているかどうかを決めるのは、次の項目です。
- 部品とそのばらつき:公差入りの部品図と実物のサンプルを送ります。公差の上限・下限に近い部品や、手元にあれば既知の不良品も含めます。完璧な1個に合わせて設計された治具は、最大実体寸法の部品で最初に詰まります
- 必要な出来高:1直あたりの必要数と、何をもって良品とするかを書きます。サイクルは製作会社に提案させ、その数字の根拠を示させます
- 異常時の動き:供給ミス、部品の欠落、検査の不合格のときに、停止するのか、排出するのか、警報を出すのか、記録するのかを書きます
- 使用する工場のユーティリティ:電源の電圧・周波数・接地方式、圧縮空気の圧力と品質、接続するネットワークです。日本へ持ち込む設備なら、ベトナムの製作会社の工場ではなく、設置する日本の工場の値を書きます。日本は地域によって商用電源の周波数が50Hzと60Hzに分かれるため、設置場所の値を確認して書きます
- 安全の要求:設計で従うべき規格と、使用する国のルールを書き、リスクアセスメントを納入物として求めます(手順3で詳しく扱います)
- 操作画面と言語:画面・銘板・取扱説明書の言語、作業者の作業高さ、部品の投入方法です。日本の工場で使うなら日本語表示が必要か、英語でよいかを決めておきます
- データ:検査結果を保存するか、書き出すか、ラインの管理システムに送るか、その形式です
- 納入物:機械図面と3Dデータ、電気・空圧回路図、編集可能な形の制御プログラム、部品表、予備品リスト、取扱説明書、リスクアセスメントです
後悔が多いのは最後の項目です。編集可能な制御プログラムと回路図がない機械は、作った会社にしか改造できません。設計とプログラムの権利は契約の問題なので、納入物の一覧を発注書に入れ、製作会社が既存の自社設計を使う場合は、引渡し時に何を受け取れるかを合意しておきます。
手順3|日本へ持ち込む設備は、日本の安全の考え方を仕様に入れる
リスクアセスメントの規格(ISO 12100)と機械の電気装置の規格(IEC 60204-1)を仕様書に書き、日本では同じ内容がJISになっていることを踏まえて、残留リスクの情報を納入物として求めます。
ISO 12100(機械類の安全性-設計のための一般原則-リスクアセスメント及びリスク低減)は、機械の設計で安全を達成するための用語・原則・方法を定めた国際規格で、ISOは2022年に見直しのうえ現行版(2010年版)を確認しています。日本では、ISO 12100:2010を基にしたJIS B 9700:2013があります。機械の電気装置については、IEC 60204-1の現行の統合版は2016年版に2021年の追補を加えたもので、日本ではIEC 60204-1:2016に一致するJIS B 9960-1:2019があります。ベトナムの製作会社にはISO・IECの番号で伝え、社内の安全担当にはJISの番号で説明すると、双方の話が早く通ります。
日本側の制度として押さえておきたいのが、厚生労働省の「機械の包括的な安全基準に関する指針」です。ISO 12100の考え方を取り入れて2001年に策定され、2007年に改正されています。さらに労働安全衛生規則第24条の13(2012年4月施行)では、機械を譲渡・貸与する者が、機械の危険な箇所や、その箇所に起因する危険のある作業などを文書で相手に通知するよう努めることとされ、その方法は指針(平成24年厚生労働省告示第132号)で、残留リスクマップや残留リスク一覧といった文書の形で示されています。
海外の製作会社に日本の規則がそのまま及ぶわけではありません。だからこそ、同じ内容の情報を発注書の納入物として書いておくのが実務的です。リスクアセスメントの結果、設計で取り切れなかった残留リスクの一覧、保護方策を説明した取扱説明書を、日本語または英語で受け取ると決めておけば、受け入れる日本の工場がそのまま安全対策に使えます。複数の機械をつないでセルにする場合は、組み合わせによって生じるリスクを誰がまとめるかも決めておきます。
設備がベトナムにとどまり、圧力容器や揚重設備を含む場合は、ベトナム側で使用前の検査が必要な品目に当たらないかも確認が必要です。
手順4|金属を切る前に、設計審査を段階で行う
概念、3D設計、電気回路図を製作開始前に製作会社と確認し、決めたことはすべて図面の版に結びつけて記録します。費用と時間が失われるのは、加工後の変更です。
| 審査 | 確認すること | 承認の記録 |
|---|---|---|
| 概念 | 工程の順序、レイアウト、部品の出入り、安全の考え方 | 概念図(版を記入) |
| 3D設計 | 部品図に対する基準とクランプ、投入・保全のしやすさ、安全柵・カバー | 承認したモデルの版、未決事項の一覧 |
| 電気・空圧 | 回路図、部品リスト、盤内配置、安全回路の設計 | 承認した回路図の版 |
| ソフトウェアの概要 | 運転モード、異常処理、画面、データ出力 | 文書化した説明の承認 |
現地に行けなければ画面共有で審査して構いませんが、議事録は必ず文書で残し、図面の版に添付します。通話で言っただけで書面に残っていない指摘は、受入検査で揉める典型的な原因です。
💬 設計審査に同席し、版ごとの議事録を管理する役割もお引き受けします。 Sunsho Tradeはベトナムでの製造・OEMの支援として、製作会社とのやり取り、立会検査、出荷までを現地で行います。お問合せフォーム・LINEからご相談ください。
手順5|電気・空圧部品は、設備を使う工場の保全部門に合わせる
制御機器、安全部品、空圧機器は、自社の保全部門がすでに扱っているものを指定し、正規ルートからの調達を求めます。機械は何年も、作っていない人の手で保全されるからです。
製作会社は、自分たちが知っていて早く買える部品で見積もります。それ自体に問題はなくても、自社工場が別の制御機器で統一していれば、保全担当者には新しいソフト、新しい教育、新しい予備品が必要になります。日本の工場では、PLCやタッチパネルのメーカーを工場単位で統一していることが多いはずです。見積の前に、制御機器のシリーズ、安全リレーまたは安全コントローラ、ドライブ、センサ、空圧バルブ、操作パネルを並べた推奨部品リストを渡します。こだわりがない部品はそう書き、製作会社に見積書で選定品を明記させれば、比較ができます。
ほぼすべての案件で出てくる論点がほかに3つあります。
- 正規ルートでの調達:ブランドを問わず、メーカーの正規販売ルートからの購入を求め、安全関連部品は購入記録も求めます。偽造の安全リレーでも、机上では動きます
- 使用する国で求められる認証や定格:設備を別の国で使うなら、部品にその国の定格や表示が要る場合があります。判断するのは自社の安全担当で、製作会社にはそれを仕様として伝えます
- 予備品:出荷前に品番入りの推奨予備品リストをもらい、重要な予備品は設備と一緒に発注します
手順6|製作会社で一度、自社工場でもう一度確かめる
工場立会検査(FAT)と現地検査(SAT)の中身、つまり何を、どの部品で、どれだけの時間、どの基準で動かすかを発注書に書き、支払いの区切りと結びつけます。
FATは、ベトナムの製作会社の工場で、設備を分解・梱包する前に行います。問題を見つけるのに最も安い時点です。使えるFAT計画書には次の項目が入っています。
- 使う部品(発注側が十分な数を用意し、公差の上下限に近いものも含める)
- 運転時間と、合格とする出来高・不良率(発注側が決める)
- 実演させる異常の場面(部品の欠落、安全カバーを開けた場合など)
- 確認する安全機能(非常停止、インターロックなど)
- 提示させる書類(図面、回路図、プログラムのバックアップ、リスクアセスメント、検査具の校正報告)
- 未決事項をどう記録し、出荷前にどう閉じるか
立ち会えない場合は、書面の計画書に沿ったオンライン中継と、記録した結果の提出を求めます。SATは、自社工場に据え付けた後に、自社のユーティリティと自社の作業者で主要な確認を繰り返すものです。支払いは通常これらの区切りに合わせます。前払いと残金の組み方、方式ごとのリスクはベトナム製造委託の支払い条件にまとめています。
検査具の受入は、測定の問題として扱います。認定された校正機関にトレーサブルな校正報告と、実部品を使った繰り返し性・再現性の評価(GR&R)を求めれば、その検査具が良品と不良品を確実に分けられるかが分かります。
手順7|梱包・据付と、引渡し後の支援を先に決める
設備の分解・合いマーク・梱包の方法、据付を誰が行うか、引渡し後の保証・遠隔対応・予備品・プログラム変更をどうするかを、発注前に決めます。
大きな設備は分割して輸送します。製作会社には、ケーブルと空圧配管への合いマーク、分解前の組立状態の写真撮影、プログラムのバックアップと図面の写しの同梱を求めます。海上輸送の梱包は、湿気と錆への対策が要ります。
引渡し後の論点は実務的です。設備が止まったときに誰が対応し、どれくらいで遠隔接続できるのか。遠隔接続を自社のネットワーク経由で許すのか。プログラムの変更をどう依頼し、誰が変え、どう記録するのか。予備品を何年保有または調達できるのか。好意に頼らず、答えを発注書に書いておきます。
発注側が費用を払い、ベトナムの部品メーカーの工場に置いておく治具や専用機は、法的には型や工具と同じ扱いになります。識別表示、所有権、引き揚げの条件はベトナム製造委託の金型管理の条項が、そのまま専用組立機や検査具にも使えます。製作会社の工場を事前に見ておく場合は、ベトナム工場の監査・視察ガイドのチェックリストが参考になります。
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よくある質問(FAQ)
Q1. ベトナムの製作会社に治具や専用機の見積を依頼するとき、何を送ればよいですか?
A. 公差入りの部品図、公差の上下限に近いものを含む実物のサンプル、必要な出来高、設置する工場のユーティリティ、適用する安全規格とルール、推奨部品リスト、画面と取扱説明書の言語、引渡し時に受け取る納入物の一覧です。
Q2. 制御部品は指定すべきですか、製作会社に任せるべきですか?
A. 自社工場に標準があるなら指定します。設備は何年も自社の保全部門が面倒を見るからです。標準がなければ、見積書で選定品を明記させ、正規ルートでの調達を求め、予備品リストを受け取ります。
Q3. 日本へ持ち込む設備では、安全について何を求めればよいですか?
A. ISO 12100に沿ったリスクアセスメントと、IEC 60204-1に沿った電気装置の設計を仕様に書き、リスクアセスメントの結果と残留リスクの一覧、保護方策を説明した取扱説明書を納入物にします。日本の労働安全衛生規則が求める危険情報の通知と同じ内容を、受け入れ側が使える形で受け取るためです。
Q4. 工場立会検査(FAT)には現地へ行かなければなりませんか?
A. 必ずしも必要ではありません。書面の計画書に沿ったオンライン中継で、自社の部品を設備に流し、結果を記録してもらえば代替できます。大事なのは、計画書、使う部品、合格基準を検査の前に合意しておくことです。
Q5. 制御プログラムは受け取れますか?
A. 発注書に書いた場合だけです。編集可能な制御プログラム、回路図、図面、リスクアセスメントを納入物として列挙します。製作会社が既存の自社設計を使う場合は、何を受け取り、何を変更してよいかを合意しておきます。
まとめ
ベトナムで治具や自動機を作ってもらうときに効くのは、機械の形より先に、部品のばらつきと設備を使う工場の条件を書くことです。何を作るのかを4つに区分し、仕様書には実物の部品、必要な出来高、異常時の動き、日本の工場のユーティリティを書く。日本へ持ち込む設備なら、ISO 12100とIEC 60204-1を仕様に入れ、残留リスクの情報を納入物にする。設計審査を段階で行って議事録を版に結びつけ、制御部品は自社の保全部門が扱えるものにそろえる。FATとSATの中身を発注書に書いて支払いと結びつけ、引渡し後の支援まで先に決めておく。これで、梱包が終わってから「こんなはずではなかった」と言う場面はかなり減らせます。
💬 仕様書の整理から、製作会社探し、設計審査への同席、自社の部品を使ったFATの立ち会い、輸出手続きまで代行します。 Sunsho Tradeはホーチミンに拠点を置く日系商社です。ベトナムでの製造・OEM、調達・輸出支援のどちらでもご相談いただけます。お問合せフォームまたはLINEからお気軽にどうぞ。