ワイヤーハーネスは、図面の上では単純に見えます。電線が何本かあり、両端にコネクタが付き、枝ごとに長さが書いてある。だからこそ、ベトナムの工場から返ってくる見積は揃いません。ある工場は指定どおりの純正端子と、その端子専用の圧着金型(アプリケーター)で見積もり、別の工場は形の似た互換端子と手持ちの汎用プレスで見積もります。どちらのハーネスも導通検査には通ります。数年の振動を受けたあとも接触を保っているのは、片方だけかもしれません。

日本の発注側にとって、もう一つ厄介なのが「日本では通じていた書き方」です。社内品番だけの部品表、「0.5sq」「AVSS」といった日本の電線の呼び方、色を日本語の略号で書いた結線表。日本の協力工場なら黙って読んでくれたものが、ベトナムの工場では質問か、推測か、手持ち品での置き換えになります。

この記事が扱う範囲 — ワイヤーハーネス(ケーブルアッセンブリを含む)を海外工場に作ってもらうときに固有の論点だけを扱います。ハーネスを組み込む基板はベトナムで基板実装(PCBA)を委託する、導通検査台や組立治具を別途作る場合はベトナムで治具・検査具・自動機を製作するにあります。工法を問わない論点は、書類の求め方が品質書類、見積の取り方が見積もり(RFQ)の取り方、候補の集め方がサプライヤーの探し方です。

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手順1|日本の図面と部品表を、社外の人が読める形にする

ハーネス図面は、電線・端子・コネクタを品番で、長さを公差と基準点つきで、ピン配置と保護材まで確定させる必要があります。空欄は、工場がそれぞれ自分の標準で埋めるからです。

ハーネス工場は、図面から実寸大の布線板(フォームボード)を作り、その上で電線を這わせて組み立てます。図面に1行抜けがあれば布線板は推測で作られ、その板から出てくるハーネスはすべて同じ推測を繰り返します。日本の社内図面で特に抜けやすいのは次の項目です。

項目書くこと日本の図面で抜けやすい点空欄のままだと
電線導体サイズ、絶縁材、耐熱温度、色、準拠する電線規格または電線種別「0.5sq 黒」だけで規格名がない耐熱の低い安価な電線で見積もられる
端子メーカー名と品番、めっき社内品番だけで、メーカー品番が部品表にない嵌合の保証がない互換端子になる
コネクタハウジングメーカー名と品番、二重ロック・防水栓の有無防水タイプと非防水タイプの区別が品番以外にない浸水や端子の抜けが起きる
ピン配置回路ごとの結線表(どこからどこへ)と、図が嵌合面側か電線側か見る向きが社内の暗黙ルールになっているピンが左右反転したまま初品が上がる
長さ枝ごとの長さ、測る基準点、公差「全長」だけで、どこから測るかがない工場ごとに測る場所が違う
保護材テープの種類と巻き方、コルゲートチューブ、スリーブ、熱収縮チューブ、グロメット、クランプ「テープ巻き」とだけ書いてある見た目は同じで耐熱・耐摩耗が足りない
表示ラベルの内容・位置・材質・印字方法日本語の表示文字を前提にしている組立後や洗浄後に読めなくなる
出来栄え基準準拠する規格とクラス、社内基準との優先関係社内の作業標準書が前提で、社外に出ていない圧着やスプライスが不良かどうかで揉める
検査全数で行う検査とその判定値「導通検査」とだけ書いてある検査済みが導通確認だけを意味する

手戻りの原因として多いのは2つです。1つはコネクタの図をどちら側から見ているか。嵌合面から見た図か電線側から見た図かを明記しないと、配線は完璧なのにピンが鏡写しになったハーネスができます。もう1つは長さの基準点で、「コネクタ端面から」「分岐点の中心から」のように測る位置を書きます。

色の書き方にも一手間かけます。結線表の色を「白/赤」や社内略号で書いている場合は、英語の色名と対応表を付けてください。ストライプ(ベース色と線色)の順番も、どちらを先に書くかを明記します。部品表は、社内品番の横にメーカー名とメーカー品番の列を足すのが基本です。工場は、特定できないものは買えません。

手順2|電線の指定を、日本の呼び方から相手が買える形に直す

「0.5sq」「AVSS」のような日本の呼び方は、日本国内の流通を前提にした略称です。導体断面積、規格名と版、耐熱温度、色を分けて書き、海外で入手できる同等品の扱いまで決めておきます。

日本の図面で使われる電線の指定には、いくつかの系統があります。

  • 自動車用の低圧電線:JIS C 3406(自動車用低圧電線、いわゆるAV)や、JASO D 611(自動車部品-低圧電線)が図面に書かれていることがあります。JASO D 611は、試験規格のJASO D 618と統合されて、2020年にJASO D 625群の第3部(JASO D 625-3)として制定されています。古い図面のまま送ると、工場は廃止前の版を前提に電線を探すことになります
  • 国際規格を引用している場合:自動車用単心電線についてISO 6722-1を引用している図面がありますが、各国の規格カタログでは2011年版が廃止扱いとなり、ISO 19642シリーズが後継の範囲を扱っています
  • 機器内配線:UL規格のAWM(機器配線用電線)のスタイル番号と、AWG(米国の線径表示)で指定する例も多くあります

注意したいのは、sq(mm²)とAWGは一対一には対応しないことです。「0.5sq相当のAWG」で置き換えると、導体断面積がわずかに変わり、端子の適合電線範囲から外れることがあります。端子メーカーの仕様は電線の断面積と被覆外径の範囲で決まっているため、置き換えるなら端子側の適合範囲まで確認します。

工場から「日本の規格品は現地で手に入りにくいので同等品にしたい」と提案されたときに止まらないよう、誰がどの資料を見て承認するかを先に決めます。電線のデータシート(導体構成、被覆外径、耐熱温度、準拠規格)を端子の適合範囲と照らしてから品番を承認し、どのロットから使ったかを記録に残します。

なお、電源コードのようにハーネスを日本で単体の電気製品として販売する場合は、電気用品安全法の対象になりうるため、経済産業省の「対象非対象解釈例一覧」で品目ごとに確かめてください。

手順3|端子の圧着は、端子メーカーの仕様を基準にする

圧着の良否(クリンプハイト、ベルマウス、導体の突き出し、被覆の抱き込み)は端子メーカーの製品仕様書が基準です。発注書にそう書き、工場がその仕様をどの工具で実現するかまで確認します。

圧着は、端子と電線を冷間で塑性変形させてつなぐ接合です。品質は端子・電線・工具の組み合わせで決まるため、端子メーカーは端子と適合電線の組み合わせごとに仕様書を出しています。そこから導かれる確認項目は、どの工場でも共通です。

  1. クリンプハイト:段取りごとの初品と、生産中の一定間隔で測り、端子メーカーがその電線サイズに定めた値と照合する
  2. 固着力(引張試験):電線が抜けないことを確かめる破壊試験。最小値を端子仕様と出来栄え規格のどちらから取るかを書いておく
  3. 断面観察:圧着部を切断・研磨・撮影し、素線が均一に圧縮されているかを見る。初品承認時と、アプリケーター・端子の調達先・電線を変えたときに求める
  4. 外観:導体圧着部への被覆の噛み込み、バレル外への素線のはみ出し、ベルマウスの欠落、端子の曲がりは、出来栄え規格に合否の線がある目視項目

結果だけでなく、工具を決める

見積の段階で、端子ごとに専用アプリケーターを使うのかハンドツールか、クリンプハイトをどう証明するかを書いてもらいます。量産では自動・半自動の圧着機とアプリケーター、少量品や手直しでは手作業が一般的で、どちらも間違いではありませんが費用も管理も違います。

段取りごとの圧着記録(端子、電線、アプリケーターの識別番号、クリンプハイト、引張試験の結果、作業者)も求めます。市場で不具合が出たとき、この記録があれば原因を1台のアプリケーターまで絞り込めます。

手順4|出来栄えの基準とクラスを、発注書に書く

IPC/WHMA-A-620と、クラス(1・2・3)、版を発注書に書き、図面が規格より優先する箇所を明記します。日本の社内作業標準を使うなら、それを社外に出せる形にして、どちらが優先かを決めます。

IPC/WHMA-A-620は、ケーブル・ワイヤーハーネス組立品の業界規格です。IPCは、圧着・機械的固定・はんだ付けによる接続について、材料・方法・試験・合否基準を定めたものと説明しています。2022年12月に発行された改訂版Eでは、はんだ付けの要求がIPC J-STD-001と整合されました。規格カタログには2025年10月発行の改訂版Fが掲載されているため、契約に書く前に最新の版を確認してください。

クラスは価格ではなく製品の用途で選びます。クラス1は機能を満たすことが主な要求である一般製品、クラス2は長い寿命が求められる専用用途の製品、クラス3は停止が許されない高信頼性の製品です。クラスを選ぶのは発注側で、選ばなければ工場は普段作っているクラスで作ります。その後で被覆の傷やスプライス部の仕上がりを巡って議論になっても、決着の物差しがありません。

日本の発注側によくあるのが、自社の作業標準書や検査基準書が事実上の基準になっているのに、それが日本語の社内文書のままというケースです。社内基準を使うなら、必要な部分を英語にして図面とともに渡し、「IPC/WHMA-A-620のクラス2を基本とし、本図面と添付の基準書が優先する」のように優先順位を一文で書きます。

💬 図面が引用している電線規格は現行版か、クラスは何にすべきか、という段階の確認から代行します。 Sunsho Tradeはベトナムでの製造・OEMの支援として、仕様のすり合わせから工場選定、初品の確認までを現地で行います。お問合せフォーム・LINEからご相談ください。

手順5|全数で見る検査と、ロットで見る検査を分ける

導通検査は検査計画の最低線であって、計画そのものではありません。電気・機械・目視の各検査を、全数で行うものとロット単位で行うものに分け、検査台を誰が持つかまで決めます。

検査見つけられるもの取り決める頻度の例
導通・短絡断線、誤配線、回路間の短絡全数
絶縁抵抗または耐電圧被覆の損傷、汚れ、挟み込み電圧とリスクに応じて全数またはロットごと
コネクタの挿入・ロック確認端子の半挿入、二重ロックの付け忘れ全数(導通検査台で同時に行うことが多い)
布線板上の寸法確認枝の長さ・位置のずれ各直の初品、以降は抜き取り
クリンプハイトと固着力圧着不良段取りごと、および一定間隔
圧着部の断面観察圧縮の偏り、素線の欠落初品と変更時
指定クラスでの外観検査被覆の傷、テープ違い、スプライス不良、ラベル誤り全数

ハーネスを差し込んで電気検査を行う導通検査台は、通常は工場が品番ごとに製作します。見積の段階で、費用を誰が持ち、所有権が誰にあり、生産を移すときにどうするかを決めておきます。布線板も同じです。金型を守る契約条項は検査台にもそのまま使えるので、ベトナム製造委託の金型管理を参考にしてください。

検査プログラムには、電気的な経路だけでなくコネクタの挿入状態も確認させます。電気的にはつながっているがロックされていない端子は、机上の導通検査には通り、使用中に抜けてきます。出荷前の第三者検査の組み方は、ベトナムの品質管理・検品代行ガイドにまとめています。

手順6|コネクタ・端子を支給するか、工場に買わせるか

支給する場合も工場に買わせる場合も、調達先の追跡ができることを条件にし、欠品と余剰在庫を誰が持つかを書面に残します。工場の通関上の立場によって支給品の入れ方が変わるため、早めに確認します。

コネクタハウジングと端子は組み合わせで性能が出るため、重要な品番は支給するか、メーカーの正規販売ルートからの購入を工場に求めるのが一般的です。

方式選ばれる場面書面に残すこと
工場が全部買う汎用品、需要が安定している部品ごとの承認メーカー・品番の一覧、無断代替の禁止、正規ルートでの購入
重要部品を支給する品薄のコネクタ、指定の防水栓、顧客指定の部品受入検査、段取りロスの許容量、保管方法、在庫報告、余剰品の返却
混在多くの案件品番ごとに誰が手配するかを示した一覧

材料を支給して加工賃を払う形は、ベトナムの法制度では単純な売買ではなく加工(gia công)として扱われ、材料の所有や余剰・端材の扱いが変わります。製造委託全体の進め方はベトナムOEM・製造委託ガイドを参照してください。

ハーネス工場の多くは工業団地にあり、輸出加工企業(EPE)として運営されている工場もあります。ベトナム財務省系の媒体が2026年8月に報じた税関の説明によると、政令35/2022/ND-CP第26条第4項では、輸出加工企業と、非関税区域ではないベトナム国内の他の地域との間のモノのやり取りは、列挙された例外を除き輸出入として扱われます。つまり、ホーチミン市内の販売店から買ったコネクタを輸出加工企業の工場へ入れるだけでも、通関の手続きが要る場合があります。最初の出荷の前に、工場と通関業者に搬入ルートを説明してもらってください(個別の案件では最新の条文で確認が必要です)。日本や第三国から部品を送る場合の考え方はASEAN部品・原料をベトナムの自社工場へ入れる、量産中の代替部品と変更通知の管理はマレーシアEMS|電子機器の製造委託の進め方の方法がハーネス部品にもそのまま使えます。

手順7|初品承認から量産ロットまで

布線板と初品を同時に承認し、署名した基準ハーネスを双方で保管します。電線・端子の調達先・アプリケーター・検査プログラムの変更は、すべて発注側の承認が要る変更として扱います。

  1. 図面の確認:工場が、分かりにくい図、抜けている公差、買えない部品を文書で質問してきます。チャットで答えず、改訂した図面で返します
  2. 布線板と初品:工場が布線板を作り、初品を組みます。寸法、クリンプハイト、固着力、断面写真、電気検査の結果をまとめた初品報告を受け取ります
  3. 基準ハーネス:テープの巻き方、取り回し、ラベルの見た目の基準として、署名したハーネスを双方で1本ずつ保管します
  4. 量産1ロット目:新しい作業者と新しい段取りが初めて図面に出会うロットなので、確認を最も厚くします
  5. 継続ロット:図面の版とクラスへの適合宣言、電気検査記録、圧着記録を保管します

変更は、版番号と適用日のついた図面改訂として届くようにし、工場にはその版で作った最初のロットがどれかを確認させます。不良が出たときの費用負担はベトナム工場の不良・納期遅延、未然防止の仕組みはベトナム製造委託の品質トラブル対策、テト連休をまたぐ生産計画はベトナムのテト前後の発注逆算表で扱っています。

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よくある質問(FAQ)

Q1. ベトナムの工場にハーネスの見積を依頼するとき、何を送ればよいですか?
A. 長さ・公差・基準点の入った図面、回路ごとの結線表、電線・端子・ハウジング・防水栓・保護材のメーカー品番が入った部品表、出来栄え規格とクラス、検査要求、ラベルと梱包の指示です。想定数量も添えると見積の前提がそろいます。社内品番しかない部品表は、そのままでは工場が部品を買えません。

Q2. 部品表の端子ではなく、互換端子を使いたいと言われたらどうしますか?
A. 書面で承認するまで使わせないのが原則です。互換端子はハウジングに入っても、接触力やめっきが違う場合があります。認めるなら、初品で確認したうえで特定の品番を承認し、どのロットから使ったかを記録させます。

Q3. 日本の図面にある「0.5sq」をAWGに置き換えてもよいですか?
A. sqとAWGは一対一には対応しないため、置き換える場合は端子メーカーの適合電線範囲(断面積と被覆外径)に入っているかを確認します。電線の規格名も、古い版や廃止された版を引用していないかを合わせて見直してください。

Q4. 導通検査だけでは足りませんか?
A. 多くの場合は足りません。導通検査では断線と誤配線は見つかりますが、被覆の損傷、弱い圧着、ロックされていない端子は見つかりません。電圧やリスクに応じて絶縁抵抗や耐電圧の検査、段取りごとの圧着確認、検査台での挿入確認を加えます。

Q5. 布線板と導通検査台は誰の持ち物にすべきですか?
A. 契約に書けば、費用を払った側の持ち物にできます。見積の段階で所有権、識別表示、返却の条件を決めておけば、二社目を立ち上げるときや工場を移すときに、検査設備の作り直しから始めずに済みます。

まとめ

ベトナムでワイヤーハーネスを作ってもらうときに一番効くのは、工場選びより先に、日本の図面と部品表を社外の人が読める形に直すことです。部品をメーカー品番で書き、長さに基準点を付け、コネクタの見る向きを明記する。電線は日本の略称のままにせず、規格名と版、断面積、耐熱温度に分ける。圧着は端子メーカーの仕様を基準にし、工具と記録まで決める。クラスを発注側が選び、検査を全数とロットに分け、支給品の搬入ルートを確認する。ここまで埋まっていれば、見積は横並びになり、初品で揉める余地は大きく減ります。

💬 図面・部品表の見直しから、工場探し、初品の立ち会い、検品、輸出手続きまで代行します。 Sunsho Tradeはホーチミンに拠点を置く日系商社です。ベトナムでの製造・OEM、調達・輸出支援のどちらでもご相談いただけます。お問合せフォームまたはLINEからお気軽にどうぞ。