アルミ押出形材の図面は、たいてい断面図1枚と長さだけです。持ち運びやすく、ベトナムの押出工場なら数日で見積を返してくれます。ところが届いた見積は読みにくい形でばらつきます。キロ単価の会社とメートル単価の会社、金型代込みの会社と別の会社、アルマイトが「標準で付く」会社。そして初回納品で、その理由が分かります。合金は工場が毎日流しているもの、見える面に治具の跡、アルマイトの後に穴をあけたので穴の内側は素地のまま、といった具合です。
これらの多くは、量産が始まる前に決まっているか、決まらないまま残っているかのどちらかです。本記事では、アルミ押出形材と、押出後に切断・穴あけをした部品を買う日本の発注側が、見積の前に決めておく5つ、(1)合金と質別、(2)押出金型、(3)公差の規格、(4)表面処理、(5)切断・追加工・梱包、を整理します。
この記事が扱う範囲 — アルミを押し出して作る形材と、その切断・追加工品の発注条件です。溶かしたアルミを型に流し込むものは工程もリスクも別なのでアルミダイカストと鋳物に分けました。追加工の図面の書き方は切削加工、金型の所有権は金型管理、書類の求め方は品質書類にあります。同じ押出でも樹脂は樹脂押出品、ゴムのシールはゴム成形品です。
💬 断面図と年間の数量があれば、複数の押出工場が同じ前提で見積できる形に整えます。 Sunsho Tradeはホーチミン拠点の日系商社として、押出工場と表面処理業者の探索・選定、検品、ベトナムでの製造・OEMの手配を現地で行います。お問合せフォームまたはLINEからどうぞ。
決めること1|合金と質別は、規格名とセットで書く
合金番号だけで質別がない、あるいは質別だけで規格がない指定は、強度も仕上がりも価格も押出工場に選ばせることになります。合金、質別、それを定める規格をそろえて書きます。
建材や汎用の形材の多くは6000系で押し出されます。その中でも柔らかめの合金は押し出しやすく、アルマイトの仕上がりがよく、薄くて複雑な断面に向いています。強い合金は構造部品に向く一方、押出速度が遅く、仕上がりのむらも出やすくなります。1つの合金を毎日流している工場は、図面に書いていなければその合金で見積を出します。
質別(調質)も合金と同じくらい大事です。よく使う例では、T5は押出の熱から冷やしたあと人工時効したもの、T6は溶体化処理のあと人工時効したもので、同じ合金でも機械的性質が変わります。
| 書くこと | 参照する規格の例 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 合金の記号 | 日本は JIS H 4100:2022、欧州は EN 573-3(化学成分)、北米は ASTM B221・ANSI H35.1 | 系列名ではなく、成分の範囲が決まる |
| 質別 | JIS H 4100、EN 515:2017、ANSI H35.1 | 熱処理が決まり、強度が決まる |
| 機械的性質 | JIS H 4100、EN 755-2:2025、ASTM B221 | 引張強さ・耐力・伸びの最低値を試験の合否に使える |
| 試験成績書 | 成績書の種類とロットごとの試験 | 代表値ではなく、出荷したロットそのものを証明する |
日本の記号をそのまま渡さない
日本の図面では、JIS H 4100 の記号で「A6063S-T5」のように合金と質別を続けて書くのが普通です。ベトナムの工場は欧州や北米の規格で仕事をしていることも多く、JIS の記号を見て手元の「6063-T5」と読み替えて見積を出すことがあります。JIS の記号と海外規格の記号が同じ成分範囲・同じ機械的性質を指しているとは限らないので、読み替えを工場任せにせず、どの規格の記号で作り、どの規格の値で試験するかを引き合いに書いてください。
成績書は、化学成分と引張試験の結果が入り、鋳造ロットと押出ロットにひも付いたものを求めます。どの種類の成績書を誰が出すかはベトナム部品調達の品質書類にあります。ビレット(押出の素材)の出どころも聞いておきます。日本で特恵関税(EPA税率)を使う場合、原産地の判定にかかわることがあるからです。協定の選び方はEPA・AJCEP・RCEPの選び方を参考にしてください。
決めること2|押出金型の費用・修正・摩耗・移管を決める
押出金型は射出成形の型に比べれば安価ですが、その工場のプレスに合わせて作られます。誰が設計し、どう修正し、摩耗をどう扱い、工場を移したらどうなるかを決めます。
押出金型は、形材の断面の形をくり抜いた鋼の円盤です。中実の断面は平らな金型を通ります。パイプや閉じた部屋のある中空の断面は、金型の中でアルミが支えの周りに分かれてから再び溶着する構造の金型が要ります。ほぼ閉じた空間を持つ半中空の断面は、その中間です。中空用の金型は高く、合金や速度の影響も受けやすくなります。引き合いに入れる項目は次のとおりです。
- 金型代と、その範囲。金型本体、最初の試作、送ってもらうサンプル。最初の試作が図面に合わなかったときの扱い
- 誰が修正するか。金型は押出工場かその金型屋が、自社のプレスとコンテナの大きさに合わせて設計します。修正は通常その側の負担ですが、承認後に発注側が図面を変えた分は別です
- 摩耗と更新。金型は摩耗し、定期的に修正か作り直しが要ります。作り直しの費用を誰が持つか、キロ単価に織り込まれているかを決めます
- 大きさの限界。どのプレスにも、断面を囲む最小の円(外接円)の上限があります。工場が使うつもりのプレスに余裕をもって収まるかを聞きます。限界ぎりぎりの断面は公差を保ちにくくなります
- 金型の移管。金型は特定のプレスに合わせて作られるため、そのまま別の工場で使えないことが多くあります。将来工場を移す可能性があるなら、新しい金型と試作を見込んでおきます
所有権、刻印、引き揚げの条件は金型の契約に書きます。ベトナム製造委託の金型管理を参照してください。
決めること3|公差は、厳しい線を引く前に規格を選ぶ
押出形材の公差は、公開された規格の表で決まります。図面に公差の規格を書き、本当に厳しくすべき数か所だけに印を付けます。
押出形材は、削った部品のようには寸法を保てません。肉厚、外形寸法、角度、平面度、真直度、ねじれのそれぞれに押出の規格の公差表があり、公差は合金、寸法の大きさ、その寸法が中空部をまたぐかどうかで変わります。よく使われる規格は次のとおりです。
- JIS H 4100:2022 — 日本のアルミ押出形材の規格。日本の図面はこれを指していることが多いはずです
- EN 755-9:2016 — 一般的な押出形材の寸法と形状の公差
- EN 12020-2:2022 — EN AW-6060 と EN AW-6063 の精密形材向けのより厳しい公差。主に建材用で、見える面の要求も厳しくなっています
- ANSI H35.2(2024年版、メートル版の H35.2M あり) — 北米でアルミ製品の寸法公差に使われる規格
1つを選んで書いてください。図面に何も書いていなければ、押出工場は自分の知っている規格を当てはめ、双方とも「合意した」と思い込みます。そのうえで、はまり具合や組立を決める寸法に印を付け、個別の公差を書きます。規格の表より厳しい公差は、押出速度を落とす、金型を高くする、押出後に削る、のいずれかが必要になることがあり、見積にどれで対応するのかを書かせます。
日本の図面によくある「指示なき寸法公差は JIS B 0405 による」という注記は、主に削り加工の普通公差を想定したものです。押出のままの面にそのまま当てはめるのか、押出の規格の表に従うのかを分けて書かないと、相手は判断できません。
図面には**見える面(意匠面)**の印も付けます。押出直後の冷却台でどの面を下にして支えるか、どこなら接触の跡を許すか、どの面を保護フィルムで守るかが、それで決まるからです。
💬 自社の形材が一般の公差表と精密の公差表のどちらに当たるのか、見積前に一緒に確認できます。 図面の注記の整理から、ベトナムでの製造・OEMの工場選定、初品の立ち会いまで対応します。お問合せフォーム・LINEからご相談ください。
決めること4|表面処理は規格・色・試験と「治具跡の位置」まで書く
表面処理は押出とは別のラインや別の会社で行うことが多い工程です。それ自体の規格、色の基準、試験を書き、治具の跡をどこに許すかを決めます。
よく使うのはアルマイト(陽極酸化処理)と粉体塗装です。それぞれ指定の仕方が違います。
| 判断基準 | アルマイト(陽極酸化) | 粉体塗装 |
|---|---|---|
| 日本の規格 | JIS H 8601(陽極酸化皮膜、2025年改正)。アルマイトの上に塗装を重ねる複合皮膜は JIS H 8602 | 用途ごとに確認する |
| 国際・欧州の規格 | ISO 7599:2018(装飾・防食用の陽極酸化皮膜の指定方法) | EN 12206-1:2021(建材用アルミへの熱硬化性粉体塗装) |
| 書くこと | 皮膜の厚さの区分、色、封孔、外観 | 粉体の種類、色番号、光沢、膜厚 |
| よくある確認 | 渦電流式の膜厚測定(ISO 2360)、アドミタンスによる封孔の品質(ISO 2931:2017) | 膜厚、密着、光沢、外観 |
| 色の管理 | 明・暗の限度見本。合金とロットで色が変わる | 色の基準と光沢の水準 |
| 対象外 | 硬質アルマイトは別の規格(ISO 10074、日本は JIS H 8603) | 液体塗装は別の規格 |
日本の図面は JIS H 8601 や JIS H 8602 を指していることが多く、ベトナムの表面処理業者は ISO や欧州の規格で仕事をしていることがあります。合金の記号と同じく、どちらの規格の区分で処理し、どちらの方法で膜厚を測るかを引き合いで決めておきます。揉め事の多くは次の3点から起きます。
- 治具(ラック)の跡。アルマイトでは接点で、塗装ではフックで形材を保持するため、その点が素地のまま残るか跡になります。跡を許す場所、たとえば切り落とす端や見えない面を書きます
- 色の幅。アルマイトの色は合金の成分やロットで変わります。目標の色1つではなく、明るい側と暗い側の限度見本を現物で一組合意します
- 工程の順番。アルマイトの後に切断・穴あけ・抜きをすると、その切り口は素地のアルミになります。どの面と穴なら素地でよいかを決めるか、表面処理の前に加工するよう求めます。その場合、加工後の部品を処理業者の治具で保持できるかも確かめます
表面処理を社内で行うのか外注なのかも聞いてください。外注なら、図面、意匠面の印、限度見本が処理業者まで届いている必要があり、加工後に見つかった処理の不良に誰が答えるかを見積に書かせます。限度見本の作り方と保管の考え方は、樹脂射出成形の外観の決め方と同じです。
決めること5|切断・追加工・梱包で「形材」を「部品」にする
多くの発注側が欲しいのは長い形材ではなく完成した部品です。押出の後の工程をすべて挙げ、誰がどの順番で行うかを決め、海上輸送の湿気に耐える梱包を求めます。
形材の追加工には、定尺切断、端面の加工、穴あけとタップ、抜き、曲げ、断熱材の組込み、付属品の取付けなどがあります。それぞれについて、順番と、社内か外注かを鋳物の場合と同じように書き出します。追加工の図面の書き方、つまり基準面、普通公差、ねじはベトナム切削加工の発注前に決める図面と公差にまとめています。
切断品には、長さの公差、切断面の直角度、バリ取りの要否を書きます。単価の単位も確認します。キロ単価、メートル単価、1個単価のどれかで、キロ単価なら1メートルあたりの理論重量が前提になっています。その理論重量と、実際の重量で請求するのか、端材や切断のロスを誰が持つのかを聞き、各社の見積を1枚に並べます。並べ方はベトナム製造委託の見積もり(RFQ)の取り方にあります。
梱包は見た目以上に大事です。海上輸送のアルミは、ぴったり重ねた形材の間で湿気が結露すると、白いさびや水しみが出ることがあります。決めておくのは次の点です。
- 保護フィルムを表面処理の後に見える面へ貼ること、貼ったままにしてよい期間
- 仕上げた形材の間に挟む合紙・緩衝材(面どうしがこすれないように)
- 長さ方向に支えのある束や木枠、コンテナに合わせた大きさ、端部の保護
- 航海が長い場合の防湿(乾燥した状態での梱包と乾燥剤)
- 束ごとのラベル(品番、図面の版、合金と質別、表面処理、ロット、長さ)
積み込み前の寸法、限度見本との外観比較、膜厚の測定、数量と梱包の確認は、出荷前検査の項目に入れます。進め方はベトナムの品質管理・検品代行ガイドを参照してください。
見積依頼のチェックリスト
押出の見積は、すべての工場が同じ合金、質別、公差の規格、表面処理の指定、追加工の一覧で見ているときに初めて比べられます。
- 断面図:意匠面の印、効いている寸法、公差の規格
- 合金と質別:定める規格と、求めるロット成績書
- 金型:費用、試作、修正、摩耗と作り直し
- 表面処理:アルマイトか粉体塗装か、規格、膜厚、色の基準と限度見本、治具跡の位置
- 追加工:工程ごとに順番と、社内か外注か
- 切断長さと公差、単価の単位と1メートルあたりの理論重量
- 梱包と表示
- 年間数量、1回の発注量、納入の分け方
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よくある質問(FAQ)
Q1. 合金を指定していれば、質別まで書く必要はありますか?
A. 必要です。同じ合金でも質別が違えば強度が変わります。質別と、それを定める規格(日本なら JIS H 4100)を書き、引張試験の結果が入ったロット成績書を求めてください。
Q2. 自社で金型代を払えば、別の押出工場へ持って行けますか?
A. 持って行くことはできますが、変更なしでは使えないことがあります。金型は特定のプレスに合わせて作られるためです。工場を移す、または2社で作る可能性があるなら、2社目では新しい金型と試作を見込み、所有権の条件は金型の契約に書いておきます。
Q3. アルマイトの色が納品ごとに違うのはなぜですか?
A. アルマイトの色は合金の成分、表面の状態、処理の条件で決まり、ロットごとに自然に変わります。明るい側と暗い側の限度見本を一組承認し、目標の色1つではなく、その幅で各ロットを判定してください。
Q4. 穴あけはアルマイトの前と後のどちらにすべきですか?
A. 穴の内側が素地でよいかどうかで決まります。アルマイトの後に穴をあけると内側は素地になり、前にあけると処理業者が加工済みの部品を治具で保持できる必要があります。面ごとに決めて図面に書いてください。
Q5. キロ単価の見積とメートル単価の見積はどう比べればよいですか?
A. キロ単価の工場に1メートルあたりの理論重量と、実際の重量での請求の方法を聞き、両方を同じ単位に直します。そのうえで、金型、表面処理、切断、端材のロスがそれぞれ含まれているかを確かめてから価格を比べてください。
まとめ
アルミ押出材は、断面図1枚で見積が集まるぶん、図面の外で決まることが多い品目です。合金と質別は規格とセットで書き、JIS の記号の読み替えを工場任せにしない。押出金型は試作・修正・摩耗・移管の扱いまで決める。公差は JIS H 4100 などの規格を選んでから、効く寸法だけを厳しくする。表面処理は規格、膜厚、限度見本、治具跡の位置、工程の順番まで書く。切断・追加工・梱包を一覧にし、単価の単位をそろえる。この5つがそろえば、見積は横並びになり、初回納品の「こんなはずでは」はかなり減らせます。
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※出典:JIS H 4100:2022、JIS H 8601:2025、JIS H 8602:2025、JIS H 8603、EN 573-3、EN 515:2017、EN 755-2:2025、EN 755-9:2016、EN 12020-2:2022、ASTM B221、ANSI H35.2(2024年版)、ISO 7599:2018、ISO 10074、ISO 2360、ISO 2931:2017、EN 12206-1:2021。2026年10月19日確認。