家電の樹脂ハウジング、産業機械のプレスカバー、ポンプの切削シャフト。こうした部品の委託先をタイで探すと、自動車部品を作っている工場と同じ顔ぶれに行き当たることがよくあります。射出成形・プレス・切削という工程そのものは同じだからです。違うのは、部品の周りにある「承認の仕組み」です。自動車部品にはPPAPという業界共通の承認手順がありますが、家電や機械の部品にはそれがありません。何をもって「この部品は正しい」とするかを、発注する側が自分で決める必要があります。
本記事では、日本の製造業の調達・生産技術の担当者が、タイで家電・機械向けの金属・樹脂部品を委託するときの段取りを、手順の順に整理します。自動車部品の場合の図面・IATF 16949・PPAPの話はタイで自動車部品の製造委託|図面と品質書類に、タイ企業の登記確認や原産地証明の発給機関はタイから仕入れる・委託製造の進め方と確認先にまとめていますので、ここでは繰り返しません。
💬 タイでの家電・機械部品の委託先探しや、中国・日本からの第二調達先づくりをご検討中の方へ。 案件ごとに部品に合う工場を探し、見極め、管理します。アジア各国からの調達をご覧いただき、図面と年間数量をお問合せフォームからお送りください。
手順1:部品の合否を何で決めるかを先に決める
PPAPのない部品は、自社の顧客や認証機関が完成品で何を確認するかから逆算して、部品ごとの「承認に使う証拠」を自分で決めます。
業界共通の枠組みがないこと自体は問題ではありません。困るのは、量産が始まってから自社の顧客や品質保証部門に「この書類はありますか」と聞かれ、工場にそもそも保管を頼んでいなかったと気づく場面です。家電の部品と機械の部品では、合否を左右するものが違います。
| 項目 | 家電・電気製品の部品 | 産業機械・設備の部品 |
|---|---|---|
| 合否を決めるもの | 完成品の安全認証と外観 | 組み立てた機械の中でのはめあい・機能・摩耗・強度 |
| 部品で変えてはいけないもの | 完成品の安全試験報告書に載っている材料・部品 | 材料の種類、熱処理、重要寸法 |
| ロットごとに求める証拠の例 | 指定グレードと一致する材料の証明、限度見本との外観照合 | 重要特性の寸法測定結果、材料と硬さの記録 |
| 問題が起きやすいところ | 同じ系統の別の樹脂や絶縁材料への置き換え | 指示のない硬さ、別の規格で読まれたはめあい公差 |
見積依頼書には、このどちらの列に当たる部品なのかを書いておきます。工場はそれを見て、どの品質管理の手順を当てるかを決められます。両方に当てはまる部品(たとえば電気を通す機械部品)なら、両方の列を書きます。
手順2:工法ごとに、タイの工場を探す
「金属部品メーカー」ではなく、射出成形・プレス・切削・ダイカスト・板金溶接といった工法で探し、タイ投資委員会(BOI)の下請け紹介の仕組みと展示会を候補づくりに使います。
「金属部品を作れる工場」といっても、プレスが得意な工場、切削が得意な工場、板金溶接が得意な工場があり、自社の部品を作れるのはそのうち一つだけということがよくあります。候補に会ったら、どの工程を社内で行っているかを聞いてください。めっき・塗装・熱処理は外注していることが多く、外注先の名前が明かされていれば普通のことです。
タイには、こうした部品の調達先探しのために作られた公的な仕組みが2つあります。
- BOIの産業連携開発部門(旧BUILD):BOIが1992年に設けた産業連携の部署(BOI Unit for Industrial Linkage Development、BUILD)を前身とし、下請け企業のデータベースと調達支援を運営しています。海外の買い手が引き合いを送ると候補企業の情報が届き、個別面談の手配も頼めます
- SUBCON Thailand:BOIとタイ下請け振興協会が共催する、部品メーカーと買い手の展示会・商談会で、バンコクで開かれます
どちらも、工場の良し悪しを代わりに判断してくれるものではありません。候補が見つかったら、タイ商務省事業開発局での登記確認、認証書の確認、工場の訪問へ進みます。登記の確認方法はタイから仕入れる・委託製造の進め方と確認先、訪問時に見るところはベトナム工場の監査・視察ガイド|チェックリストが、国は違いますが参考になります。
(2026年10月19日時点で、BOIのBUILDパンフレットと build.boi.go.th を確認)
手順3:家電部品は、安全認証に載った材料をそのまま指定する
完成品が安全認証を受けているなら、その試験報告書に載っている材料・部品は仕様の一部です。タイの工場には「同等品」ではなく、その材料・部品そのものを使ってもらいます。
電気製品の安全試験報告書(IECEE CBスキームによる報告書を含む)では、絶縁に使う樹脂、内部配線、スイッチ、インレットなど、安全に関わる部品・材料がメーカー名と型式で列挙されるのが一般的で、その一覧の変更は報告書の改訂として記録されます。「同じ系統の樹脂」で成形したハウジングや、別メーカーの端子台は、部品としては良くても、完成品の認証の範囲から外れてしまうことがあります。日本で販売する電気用品なら、電気用品安全法の適合確認も特定の部品構成を前提にしています。その点は台湾 電子機器OEM/ODM|設計の権利と輸出管理で触れています。
注文書に次の3行を入れておくと、置き換えを防げます。
- 材料を正確に書く:樹脂メーカーのグレード名、色番号、報告書が前提にしている難燃性の等級を書き、「書面による承認なしの代替は不可」と明記します。樹脂をグレードで指定する考え方はベトナム樹脂射出成形の委託|発注前に決める4点と同じです
- ロットごとの証拠を求める:成形記録に材料のロット番号を残し、樹脂の入荷までたどれるようにします。認証機関に聞かれたとき、どのグレードがどの部品に入ったかを示せます
- 購入部品にも同じルールを当てる:工場がケーブル・スイッチ・端子を部品に組み込むなら、一覧に載った部品のそれぞれに同じルールを適用します
アースの経路になる金属シャーシは、塗装しない接点が必要です。どこをマスキングするかを図面に示してください。RoHSなどの含有化学物質の宣言書の頼み方はベトナム部品調達の品質書類——何をいつ求めるかにまとめています。
💬 安全試験報告書に載った材料・部品を、漏れなくタイの注文書に落とし込みたい方へ。 部品図と報告書の該当ページをLINEでお送りいただければ、指定の書き方を一緒に整理します。
手順4:機械部品は、重要寸法・硬さ・補給部品の管理を決める
機械部品は、はめあい・硬さ・材料・組立で効く寸法で合否が決まります。これらは普通公差に任せず、印を付けて測ってもらいます。
シャフト、ガイドブロック、溶接フレームは、組み付けて長く使えるかで評価されます。ありがちなのは、どの寸法がいちばん大事かを工場が判断できないことです。重要特性に印を付け、初回ロットはその実測結果を、2回目以降は抜き取りの計画を求めます。熱処理は、処理の条件と一緒に硬さの範囲と測る位置を書きます。普通公差の注記やはめあいの書き方はベトナム切削加工の発注前に決める図面と公差、プレス・板金の場合はベトナム板金・プレス加工の委託前に決める4点にまとめています。タイの工場でも考え方は変わりません。
機械部品で特に効いてくる習慣が2つあります。
- 補給部品を追えるようにする:機械の部品は、何年も後に1個だけ再注文されることがあります。承認した改訂、材料、工程の流れを記録に残し、部品には品番と改訂を刻印してもらいます
- 標準部品は規格で指定する:工場が組み付けるボルト・ばね・ピン・軸受は、見た目ではなく規格と強度区分で指定します
タイの工場は、JIS・ASTM・EN・タイ工業規格(TIS)のどれで材料を呼ぶかが工場によって違います。日本の図面がJIS記号で書かれていても、工場の標準がASTMということもあります。どの規格を標準にしているかを聞き、別の規格の材料で作る場合は書面で承認してください。
手順5:材料や部品を支給するなら、工場の税関上の扱いを確かめる
樹脂・鋼材・部品・型をタイの工場へ有償支給・無償支給するなら、その工場がBOIの恩典、関税の還付、保税工場・フリーゾーンのどれを使っているかで、支給品の輸入・記録・余剰品の扱いが変わります。
日本の会社が材料を支給する理由はいくつもあります。安全認証に載った樹脂を確実に使わせたい、工場が自分では買えない部品がある、グループで決めた価格で買っている、などです。タイでは、輸出品の生産に使う輸入材料の関税を軽くする仕組みが複数あり、それぞれ記録のルールが違います。
| 工場の扱い | 支給品にとっての意味 | 工場に聞くこと |
|---|---|---|
| BOI奨励企業で、投資奨励法第36条(1)の恩典を持つ | 輸出向けの生産に使う原材料・必須材料の輸入関税が、奨励事業について免除され得る。輸入在庫と生産の配合はBOIが管理する | 奨励は有効か、この製品が対象か。支給品をどう記録するか |
| 関税法(仏暦2560年)第29条の還付を使う | 輸入時に関税を払い、完成品を法定期間内に輸出すると還付される | 関税を誰が立て替え、還付を誰が受け取るか |
| 保税工場・フリーゾーンで操業 | 税関の管理下で保管・加工し、タイ国内へ出すと関税がかかる | 余剰材料や不良品を日本へ戻せるか、廃棄か関税納付か |
| どれにも当たらない | 通常どおり輸入時に関税と付加価値税を払う | 支給品の輸入者(名義人)は誰か |
ですから、次の3つを書面で決めておきます。支給品の輸入者を誰にするか。余剰材料・不良品・端材をどうするか(これらの制度の下では国内で自由に売れないことが多く、たとえばBOIの資料では、余剰品は輸出・関税納付・承認を得ての廃棄のいずれかとされています)。そして、各段階で支給品の所有者は誰か、です。
これらの制度は告示で細かく変わります。コスト計算に組み込む前に、BOIまたはタイ税関で現行の条件を確認してください。(2026年10月19日時点で、BOIの投資奨励法第36条に関する資料と、関税法第29条に関するタイ政府の案内を確認。第29条の期間は一次資料を直接確認できなかったため、本記事では数字を書いていません)
型をタイで作るのではなく日本から持ち込む場合も、同じ考え方です。所有権・刻印・回収の条件は契約に書きます。型の契約条項はベトナム製造委託の金型管理|所有権と契約条項をご覧ください。
手順6:日本へ入れる前に、輸出管理・協定・税番を確認する
初回出荷の前に、タイ側の輸出管理に当たらないか、日本でどの協定税率を使うか、HSコードと原産地を税関の事前教示で確かめるかを決めておきます。
- タイ側の輸出管理:一般的な金属・樹脂部品はほとんど関係しませんが、機械・電子部品の一部は大量破壊兵器関連品目の管理の対象になり得ます。工場に該当・非該当の判定を書面で求める方法はタイ・台湾・マレーシアの製造委託|国の選び方にまとめています
- 協定税率:タイから日本へは、日タイEPA、日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)、RCEPの3つが候補になります。輸入部品を組み込んだタイ製の部品は、協定によって原産品になるかどうかが変わります。選び方はタイ・マレーシアから日本へ輸入|EPA・AJCEP・RCEPの選び方をご覧ください
- 税関の事前教示:日本の税関には、輸入の前に品目分類(関税率)や原産地の取り扱いを照会し、文書で回答を受けられる事前教示制度があります。樹脂部品が「プラスチック製品」なのか「機械の部分品」なのかで税番が変わるような場合は、量産前に照会しておくと、着地コストの前提が固まります
- タイの強制規格(TISI):タイの強制規格は、タイで製造・販売される対象製品にかかります。輸出用の部品は対象外のことが多く、対象製品を輸出用に外国規格で作る手続きは自動車部品の記事で説明しています
タイの見積をベトナムなど他国の見積と同じ土台で比べるには、アジア複数国の見積もりを同条件で比較する方法の手順で、運賃・関税・検品費を足した価格に直してください。
見積依頼パックの中身
タイの候補工場すべてに同じパックを送ると、返ってくる見積の差が「工場が実際にやること」の差だけになります。
| 項目 | 家電部品 | 機械部品 |
|---|---|---|
| 図面とモデル | 全シートに改訂番号、2Dと3Dのどちらが優先か | 全シートに改訂番号、重要特性に印 |
| 材料 | 指定グレード・色・難燃等級、代替不可 | 規格番号付きの材料記号、認める同等材 |
| 工程 | 成形・プレスは社内か、外注先の名前 | 切削・熱処理・表面処理、外注先の名前 |
| ロットごとの証拠 | 材料ロットの追跡、限度見本との外観照合 | 重要特性の寸法測定結果、硬さの記録 |
| 支給品 | 指定樹脂・部品、輸入者、余剰品のルール | 丸棒・鋳物・鍛造品、輸入者、余剰品のルール |
| 梱包 | 外観面の傷防止 | 加工面の防錆 |
| 数量 | 初回注文と年間予測 | 初回注文、年間予測、補給部品の需要 |
初回サンプルをどの段階で何を凍結しながら承認するかは、ベトナムの例ですがベトナム樹脂射出成形の委託|発注前に決める4点の「試打から量産へ移る判定」と同じ段取りで進められます。鋳物や鍛造の素材をインドなど別の国から調達してタイで加工する場合は、インドで鋳造品・鍛造品を調達|産地選びと検査もあわせてご覧ください。
よくある質問
1. タイで作る家電・機械部品にもPPAPが必要ですか?
A. 必須の枠組みはありません。自社の顧客がPPAP形式の書類を求めるなら頼み、そうでなければ初品の測定結果、材料の証明、合意した検査計画で足りることが多いです。初回サンプルの前に決めておきます。
2. タイの成形工場に、同等の樹脂で作ってもらってもよいですか?
A. 書面で承認した場合だけにします。承認の前に、その樹脂が完成品の安全試験報告書に載っているかを確認してください。載っていない材料に替えると、報告書の改訂が必要になることがあります。
3. 特定の工法に強いタイの工場はどう探せばよいですか?
A. 工法で探し、BOIの産業連携開発部門(旧BUILD)の調達支援やSUBCON Thailandを、業界名簿と並べて使います。候補は事業開発局で登記を確認し、発注前に訪問してください。
4. 日本から材料を支給してもよいですか?
A. できます。輸入者を誰にするか、工場の税関上の扱いで支給品がどう扱われるか、生産中の所有者は誰か、余剰品と端材をどうするかを決めておきます。BOI・還付・保税の制度の下では、余剰品を関税なしで国内に売れないのが普通です。
5. 輸出用に作る部品にもタイのTISIマークは必要ですか?
A. 多くの場合は不要です。TISIの強制規格は、タイで製造・販売される対象製品にかかり、対象製品を輸出用に外国規格で作る別の手続きもあります。自社の製品が対象リストに入るかは最新のリストで確認してください。
まとめ
タイでの家電・機械部品の製造委託は、価格交渉の前に「合否を決める証拠・工法での工場探し・認証材料の指定・重要寸法と硬さ・支給品の税関上の扱い・日本での税番と協定」を固めると、試作のやり直しと量産後の書類不足を減らせます。
BOIの恩典や関税の制度、日本の税率は改定されることがあります。契約やコスト計算の前に、最新の条件を確認してください。
💬 タイでの部品調達、工場探しから図面・支給品の段取り、検品、日本への輸入まで日本語でサポートします。 複数の工場に同じ条件で見積を依頼し、回答を並べてお渡しします。お問合せフォーム・LINEからご相談ください。
※出典:タイ投資委員会(BOI)BUILDパンフレットおよび build.boi.go.th(産業連携開発部門・SUBCON Thailand)、BOI投資奨励法(仏暦2520年)第36条(1)に関する資料と告示(Por 3/2556を含む)、タイ関税法(仏暦2560年)第29条・保税工場・フリーゾーンに関するタイ政府の案内、IECEE CBスキームの試験証明書と重要部品一覧の実例、日本税関「事前教示制度」の案内。2026年10月19日確認。